体は正直、と言いますが
正門の反対側、王宮の一角に近衛騎士団の官舎はございます。
同じ敷地内とは言え、広いのと日々の王妃教育が忙しく、今日まで来られなかったのですが――流石、騎士団の中でも花形だけあって見目良い方々が多いです。そんな方々が、真剣な表情で木剣を奮っていらっしゃいます。何と言うか、語威力が無くなるくらい爽やかで眩しいです。
「女性もいるのですね」
「リアトリスでは、軍に女性が入るのは禁じられているようだね。だが我が国では令嬢の警護もあるので、ここ数年は積極的に登用しているよ」
微笑みながら話しながら歩く、ルナリア様とシラン様も見目麗しく――失礼にならないように近衛騎士の皆様も二人を盗み見、そんな様子を私が盗み見ています。とは言え地味に加え、瓶底眼鏡でカムフラージュされているので気づかれることはありません。
(モブ万歳)
内心で拳を握りながら歩いていると、前方から黒髪の男性が歩いてきました。鍛錬中なのか、手には木剣が握られています。
「ヒルスタス団長」
「シラン様、ルナリア様、ようこそ。近衛騎士団長の、ロータス・ヒルスタスと申します」
「やあ、お邪魔しているよ」
シラン様に名前を呼ばれ、ヒルスタス様――近衛騎士団長様は、左胸に手を置いて頭を下げました。フォーム様とはまた違う、クールな感じのナイスミドルです。
(はぁ、眼福……でも、誰かに似てる?)
うっとりしつつも内心、首を傾げていると、不意にシラン様の琥珀色の瞳が肩越しにこちらへと向けられました。
そして、え、と戸惑っていると、シラン様はヒルスタス様へと向き直って言いました。
「団長。よければ、久しぶりに手合わせをお願いしたいんだが……もし、お疲れでなければだけどね」
「……かしこまりました」
そして微妙に挑発しつつも申し出たシラン様に、ヒルスタス様は平然と答え――突然のことにざわめく中、私は心の中で狂喜乱舞していました。
(そうだ、前の襲撃の時は余裕無かったけど……推しキャラのバトルシーンをじっくりガッツリ見られるとか、最っ高なんだけどっ!?)
……そう、思っていたのですが。
鍛錬場で二人が向き合い、木剣を手に前へと出たところで――思いがけないことが、起こったのです。
「ミナ……大丈夫?」
「…………」
ルナリア様に気遣うように声をかけられましたが、私は返事をすることが出来ませんでした。
他の方々は気づいていないようですが、いつも以上に無表情――と言うか手足が冷たくなり、頬が強張っているのが自分でも解るので、近くにいるルナリア様は気づかれたのだと思います。
真剣ではありませんし、シラン様は私が思っていた以上に剣術が出来るらしく、一方的にやられている訳ではありません。むしろお互い笑みを浮かべていて、普段なら萌えまくると思うのですが。
(どうしよう……すっごい、ハラハラする……)
先程の、他の近衛騎士の皆様の鍛錬ではこうはなりませんでした。いえ、今もヒルスタス様だけであれば「大人の渋い魅力、萌え」となっているのですが。
……シラン様へと木剣が振り下ろされたり、突きつけられる剣先を避けたり。
そんな姿から目が離せなくて、けれど心臓が痛いくらいに締めつけられて――体感的に痛感し、私は認めざるを得ませんでした。
(萌えキャラで、推しキャラ……だけじゃなく)
(……模擬戦でも心配になるくらい、私にとってシラン様は『特別』なんだ)




