本当に、悪い人ではないと思うのですが
さて、叔父に父の無事と身内であることを明かした私ですが。
「兄さんに、会いに行きたい……あ、言っておくが連れ戻す為じゃないよ!? ただ兄さんと会って、話をしたいだけなんだっ」
「いきなりは困ります。そもそも、叔父様と会ったことをまだ伝えていないので」
「叔父様……いいね……じゃなくて! それじゃあ、せめて手紙をっ」
「居場所を伝えたら、結局は会いに行かれるでしょう? 手紙は、私から父に出します。その手紙で、叔父様のことを伝えますから……気が向いたら、返事が来ると思います」
「兄さんの気が向くのは、下手すると年単位なんだよ……」
私の言葉に一喜一憂し、最後に肩を落とした叔父に私はやれやれと思いました。
そう、美形で頭も良い父なんですが結構、面倒臭がりなんですよね。大抵の頼まれごとなどは、にっこり笑って煙に巻いたりします。
あ、ちなみに私は娘の立場に甘えず、大抵のことは自分でやるので逆に「ミナ、何か困ったことはないかい?」と聞かれたりします――甘え下手で本当、申し訳ない限りです。
「あの、私、ルナリア様の婚礼まではここ(ディアスキア)にいますので。私経由で良ければ、父に手紙を出してその返事を届けます。それなら、流石に年単位にはなりませんから」
「神よ……!」
そう申し出た途端、叔父に拝まれてしまいました。どうしましょう、聖女と呼ばれるのがマックスだと思っていましたが、更に上の呼び方をされてしまいました。
「……私としては、彼女にはその後もずっと我が国に、そして私の傍にいて欲しいんだが。君の姪御は、この通りかなり手強い」
「っ!?」
そんな中、今まで黙っていたシラン様がやれやれと言うように肩を竦めて、爆弾発言を投下してきました。
(何、言っちゃってくれてんのっ!? イベリス様との『表向きは留学』って話はどうなった!?)
何とか、絶叫は心の中だけに留めることは出来ましたが――眼鏡越しに叔父を見ると、シラン様と私をしばし見比べて。
「それはそれは……身に余るお言葉ですが、叔父の私としては姪の気持ちを尊重しますよ。それは、彼女の父である我が兄も同様でしょう」
「……成程、手強いのは君達もか」
「ええ、身内ですからね」
そう言って浮かべた微笑みは、やはり父によく似ていました。
綺麗で、頼もしい笑み。父は知力。叔父は商会長としての財力――形は違いますが、それぞれ人間としての芯が通っているからこそ手に出来たのでしょうし、そうして得たものが更に力になっているのだと思います。
正直、王族相手ですからごり押しされるのも覚悟しましたし(良い悪いではなく、それだけの身分差がありますから)シラン様もそれを狙ったんだと思います。もっとも、断られても面白がるように笑っている辺り、悪い人ではないとは思うんですけどね。
(って言うかチャンスを逃さない辺りとか、悪戯っぽい微笑みとか。当事者じゃなきゃ、推しキャラとして素直に萌えられるんだけど)
やれやれと肩を竦めたいのは、こちらです。内心、ため息をついていると――叔父が、不意に身を乗り出してきて言いました。
「もっとも、ミナがその気になった暁には! レギア商会の名にかけて、最高の花嫁にしてみせるから! 安心してくれたまえ!」
「……アリガトウ、ゴザイマス」
父を引っ張り出せるという下心も、なくはないでしょう。
けれど、いえ、たとえそうだとしても善意からの申し出を、無下に突き放すことも出来ず――棒読みになりつつも、私は何とかそれだけ答えました。




