流石に恥とは思わないので、ここは怪我の功名で
司教の名前をエリア→マロウに変更しています。
マロウ様と初めて会ったのは、父に学び出した頃なので六歳――まだ、裸眼で過ごせた時期でした。
「教会のオルガンを弾きたいと?」
「はい、おねがいします……もちろん、ただでとは言いません」
私の言葉に、頭の上でマロウ様が驚く気配がしました。彼は、私の父親くらいの年代です。六歳の幼子から、いきなりお金の話が出るとは思わなかったのでしょう。
(とは言え、これから弾かせて貰う為にも……ここはしっかり、話さないと)
幸い、家から徒歩で通える距離なので毎日は無理でも、週に数回はお願いしたいです。その為、前世の知識に目覚めた私は対価となる『情報』を切り出しました。
「ハー……やくそうの、つかいかたについてです」
※
当初の使用法(塗り薬や湿布)故に、ハーブを口に入れるという発想がそもそもありませんでしたが――私がそれ以外の使い方を教えると、教会からあっという間に大陸中に広まりました。
「ミナ様のおかげで、私はこうして司祭から司教になることが出来ました」
「恐縮です」
「教会の薬草は、好きなだけお使い下さい。しばらく滞在されるのなら、その間……週に一度、王宮にお届けすればいいでしょうか?」
「恐れ入ります」
ここまでで、ハーブの代金の話が出ないのは特許料代わりと言いますか――ハーブの使用法を教えた代わりに、教会からハーブを無料で分けて貰えることになっているからです。
教会としては、むしろ売り上げの一部を収めたいと言われたのですが、私にとってはオリジナルではなくあくまでも前世の知識ですからね。丁重にお断りした結果がこの無料提供と、名誉職状態の二つ名だったりします。
(正直、大げさだけど……まあ、資格みたいなものだと思えば、うん)
などと自分に言い聞かせていると、マロウ様から思いがけないことを言われました。
「実は一つ、お願いが……もしよければ、我が教会で一曲、披露して頂けませんか?」
「えっ……?」
「ミナ様のオルガンが、懐かしく……いかがでしょうか?」
確かに、村にいる間は結局、ほぼ毎日教会で弾かせて貰っていました。
オルガンやピアノに関しては現世で始めたのですが――それこそ、人に教えられるくらいには弾けるので、披露することに問題はありません。正直、前世で名曲を聴いている身としては、自分の演奏をプロ並みに上手いとは思えないのですが、こうして懐かしんでくれるなら出来る限り応えたいと思います。
「君は、オルガンも弾けるのかい?」
……ええ、何だかシラン様から期待のこもった眼差しを向けられていますが、ど下手ではないですので問題ありません。
「家庭教師としての、嗜みでございます」
何とかそう答えて、私はマロウ様に促されるままにハーブ園からオルガンのある教会へと向かいました。そして、弾くのは久しぶり(皇宮では、指が鈍らないようにピアノをお借りしてしましたので)なので、比較的ゆっくりした曲を弾きました。異世界の曲ですが、賛美歌はあるんですよね。
(私は家庭教師だから、勉強したけど……平民ヒロインだと、礼拝をきっかけに教会に通うとかかしら? そこで、たまたま立ち寄ったシラン様の目に留まるとか)
なんて、弾きながらついつい妄想してしまったことはお許し下さい。
余談ですがこの後、ディアスキアの王宮でもピアノを借りられることになったので、怪我の功名と言っていいでしょう。




