変装と、思わぬ再会と
司教の名前をエリア→マロウに変更しています。
この世界には未だ、電話がありません。
もしかしたら魔法で似たようなことが出来るかもしれませんが、一家に一台魔導士という訳ではないですし。平民ならまだしも、貴族以上だといきなりの訪問は失礼にあたるので先触れをするのが一般的です。
(私だけならまだしも、シラン様もとなるとね)
そんな訳で、教会には昨日のうちに私達が訪れることは伝えてあります。
私が生まれ育ったような小さな村はともかく、ある程度大きい街ですと規模の違いはありますが、ここディアスキアのように王城(あるいは皇居や領主宅)の周りに貴族街があり、城下町に辿り着くようになっています。
そして教会は、富裕層も平民も訪れるのでその境目の辺りに建てられることが多く。今日は教会までは用意された馬車で向かい、その後は徒歩で城下町に行った後、迎えに来てくれる馬車に乗って帰ってくることになっています。
(それにしても)
比較的簡素ですが、シラン様が乗るだけあって今回の馬車も有蓋です。
幸い、シラン様は私の隣ではなく、向かいに座ってくれましたが――城下町に行く為か、下級貴族の子弟(富裕層は基本、上着を着ますが下級貴族は生地や刺繍の簡素さで区別します)という格好をしています。
更にいつも下ろしている前髪を上げ、眼鏡をかけていつもと印象を変えています。同じ眼鏡でも私のような瓶底眼鏡とは違い、お洒落にしか見えません。
(お忍び経験済みなのは、何となく解ってたけど……すっごい慣れてる。これはヒロイン、王族って気づかなくても惚れる)
城下町でのロマンス、いけます。今日もネタをありがとうございます、と内心で拝んでいるうちに、馬車は教会へと辿り着きました。
そして、先に降りたシラン様に差し出された手を取って、馬車を降りると――そんな私達を、数人の司祭様を従えた男性が出迎えてくれました。
「ようこそ、シラン様……そして、お久しぶりです。ミナ様」
「……マロウ司祭様?」
「はい……あ、ただ、一年前からディアスキア(ここ)で司教を務めております」
そう言って、薄茶の瞳を笑みに細めたのは――私が生まれ育った村の司祭様であり、オルガンを使わせて貰う代わりにハーブの利用法について教えたマロウ様でした。




