何者?
こうして、屋根の下で温かいご飯が食べられます。そして、一人じゃありません。目の前には『お父さん』がいます。
(これ以上、欲張ってどうするの)
そう心の中で呟きながら、私が野菜スープを飲んでいると。
「どうしたんだい、ミナ」
「えっ……?」
「元気がない。母さんのことだけじゃなさそうだ……何か、あったのかい?」
気づかれていたことに驚きましたが、本当に何もありません。ただ私が勝手に盛り上がって、上手くいかないからと落ち込んでいるだけです。
とは言え、そう答えたら六歳児らしくないと思ったので、私は首を横に振って応えました。
「……おいで、ミナ」
そんな私を、父親が手招きします。
戸惑いつつも近づくと、父は私を膝に乗せて顔を覗き込んできました。
(はぁ……相変わらず……)
感嘆のため息と呟きは、何とか心の中だけで留めました。
首の後ろで束ねたプラチナブロンド。優しく見つめてくる瞳は、夕闇を思わせる紫です。
(『お父さん』って、こんなに綺麗なもの?)
その疑問を、私はすぐに打ち消しました。前世で同級生の女の子達から聞いた、不満の数々を振り返るとやはり『お父さん』の方が、希少価値なんだと思います。
「ミナ?」
いけません、つい物思いに耽ってしまいました。まあ、現実逃避もありましたけどね?
「……べんきょうが、したくて」
「えっ?」
「かていきょうしのせんせいに、なりたくて」
ごまかしきれないと思った私は、観念して子供になりきって打ち明けました。そう、まあ、今の私はなりきる以前に『見た目は子供』なんですけどね?
当然、父親は聞き返してきましたし、補足した後も不思議そうに見つめてきました。
(変に思われた……嫌われた?)
せっかく出来た父親なのに、と泣きそうになっていると――そんな私の頭が、不意に優しく撫でられました。
「大丈夫、お父さんが教えてあげるよ」
「……えっ?」
「古典リアトリス語と、今ならディアスキア語も覚えていた方が良いね。あとはピアノと絵、どちらが良いかな?」
父親からの提案に、私は驚いて顔を上げました。子供に対する方便かと思いましたが、それにしては具体的な提案です。
(お父さんって、何者?)
一瞬、引っかかりましたがそれ以上に大切なことがあります。
(……勉強、出来るんだ)
「ありがとう、おとうさん!」
嬉しさのままに抱き着くと、お父さんは笑って抱き返してくれました。