勝負の行方は
この世界に、カメラはありません。けれどその代わりに、噂になるくらいの美男美女は絵に描かれて売られ、部屋に飾られたり持ち歩かれたりして日々の癒しとなっています。
(ポスターやブロマイドと言うか、絵だから浮世絵かな?)
などと、思考が脱線しそうになりましたが――シラン様が目の前にいるので、現実逃避している訳にもいきません。そう、美男美女なので当然、シラン様の絵姿もあるのです。実際、リアトリスで見せて貰ったことがあります。
(そんな有名人と、出かけるなんて……いや、待ってミナ。自惚れはいけないわ。シラン様は単に、話題を振ってくれただけよ)
それから自分に言い聞かせ、私はシラン様の問いかけに答えました。
「はい、教会でハー……薬草を、を分けて頂こうかと」
「そうか。じゃあ、その後に王都を案内するよ」
薮蛇でしょうか。いえ、王族からの質問をスルーする訳にもいきませんので、ここは気を取り直してしっかりお断りしなければ。
「王族の方にご迷惑をおかけするなんて、とんでもないです」
「迷惑なんて、むしろ君と出かけられるなんてご褒美だよ」
「そんな……そう、それに王族の方が城下に現れたら、騒ぎになりますし」
「大丈夫だよ、よく似た別人だと思ってくれるから」
さらりと口説かれるのは失礼にならない範囲で流しましたが、この口ぶりだとお忍びは経験済のようですね。小説のネタとしてはオイシイ(城下町での出会いなども演出出来そう)ですが、これだけのイケメンと出歩くと王族として騒がれなくてもそれはそれで目立つでしょう。
(父の生家(仮)に行くのに、目立つのはマズい)
さて、どうやって断ろうかと思っていますと。
「教会の後には、レギア商会に行こうか。あそこは元々、教会で作られるワインや絨毯を商って大きくなった店なんだ」
「……そう、なんですか」
「ああ。今では本店の他、ワインが楽しめる居酒屋もある」
それは、エリカさんにも聞いています。
そう、レギア商会とは私がこっそり行こうと思っていた場所で。王都にある商会本店の横に、居酒屋があるそうです。
そして成人済ではありますが、女性一人での街中での飲酒は褒められたものではなく。商会もですが、居酒屋も遠目で眺めるのがせいぜいかと思っていたのですが。
(シラン様っていう、同伴者がいれば……一杯くらいなら、飲めますね)
前回の宴の時は、万が一にも醜態を晒す訳にはいかなかったのでアルコールは控えましたが。
現世でも、飲酒は認められているので問題ないですし。前世では、仕事の後の楽しみとして『それなりに』嗜んでいました。
目的地がバレているあたり、もしや父のことも知られているのではと引っかかる部分はありますが――その話題に触れないでくれているのなら、いきなりバラされることはないと思います。
「よろしくお願いします」
……これだけのイケメンと一緒なら、地味な私はいっそ霞んで空気と化すでしょう。
誰にともかく言い訳をしつつ、私はシラン様へと頭を下げて言いました。




