あくまでも推測の域ですが
おはようございます、ミナです。
何とか宴を終え、そのまま私は王宮に滞在することになり。気づけば、二週間程が経過しました。
(宴までは、ドレスの手直し等で仕方ないと思ったけど……終わったら、城下の宿屋を探すつもりだったのに)
けれど、そんな私に待ったをかけたのはルナリア様やシラン様――だけでなく。
「ミナ嬢は、留学という名目でいらしているんですよね? でしたら客人として、気兼ねなく我が王宮で過ごして下さい」
笑顔でエルダー様にそう言われたのに、私は勝てませんでした。
何となくですが、もし断ったらシラン様との話を持ち出されて薮蛇になりそうだと思ったからです。
(留学っていう『表向き』の理由を知っているのなら、私がシラン様に口説かれているのも知っている筈)
知っているのにシラン様が言い出したとは言え、私のエスコートを止めなかったということは、少なくとも反対はしていないということで――そんな中、下手に突くと完全に墓穴です。
だから私は、あくまでも『留学生』としてお世話になることにしました。
……さて、今までもリアトリスの王宮で過ごしていた私ですが。
その時はあくまでも『女家庭教師』として雇われていたので、部屋こそ個室でしたが侍女などは付いていませんでした。
しかし、留学生であり客人として滞在する場合はそういう訳にいかず。身の回りの世話の為、侍女をお願いすることになりました。
とは言え、王宮で客人に仕える侍女となると貴族の令嬢などが多く、結果として平民の私より身分が高くなるんですよね。
そんな訳で、どうするかとなりまして――白羽の矢が立ったのが、商家から行儀見習いで来ていた『彼女』でした。
「おはようございます、ミナ様」
「どうぞ」
「……今日も、早いですね」
朝、ノックの後にかけられた声に返事を返すと、私付きの侍女であるエリカさんが入ってきました。
年は、私と同じ十七歳と聞いています。亜麻色の髪と緑の瞳。貴族の令嬢と言われても信じるくらい綺麗なんですが、口調こそ崩していませんが着替えを終えて眼鏡をかけた私に呆れ顔です。
「エリカさんのおかげです。夜のうちに、洗顔の為の水を用意してくれて……いつも、ありがとうございます」
「いえ、ミナ様のご希望ですから私は良いんですけど……何だか、楽させて貰っていると言いますか」
「私は目が悪いので、出来るだけ早く眼鏡をかけたいんです。それに食事の用意やお部屋の掃除、お風呂の準備など十分、お世話になってますよ」
「……かしこまりました」
エリカさんは真面目なのか時折、今のように「もっと世話をしなくて良いのか」と聞いてきます。
しかし私が毎回、今のように返すと庶民感覚も理解出来るのか観念し、こっそりとため息をつきつつも受け入れてくれます。
そんな彼女が朝食(客とは言え、流石に食事を王族の方々と一緒に食べるのはしんどいので、特別なことがなければ朝晩は部屋で頂いています)の支度をしてくれるのを私は椅子に座って待ちました。
エリカさんに話したことは、嘘ではないんですが黙っていることもあります。
本人に確認してはいませんが、色合いこそ違うけれどエリカさんの顔は私の父によく似ていまして。
……もしかして、なんですが。
彼女は父の血縁者、つまりは私の親戚ではないかと思っていまして――そうなると、父譲りの目の色を見られるのもどうかと思い、私は早々に身支度をし眼鏡をかけているのです。
1/14、宴から一週間後から二週間後に変更しました。




