何でそうなるの?
とは言え、まさか『ドナ○ナ』でダンスを踊る訳にはいきません。そんな訳で私は気持ちを切り替え、楽団の演奏する曲に合わせてシラン様と踊りました。
回転する度、軽やかに翻るドレスの裾。パステルカラーなので以前に妄想した通り、いや、それ以上にお花のようですね――自分のは解らないので、他の踊っている方々からの感想です。
そんなことを考えていた私に、踊りは止めずにシラン様が『古典リアトリス語』で話しかけてきました。
重要な書類や本で使われることがあるので、富裕層の方々が学ばれますが前世でも文章の意味は理解出来てもヒアリングや喋るのは難しかったりしますからね。つまりは、周りに聞かれては困ることを話すつもりなんでしょうか?
「……ユニフローラ嬢は、宰相として忙しいフォームに代わって領主代行を務めていた。今回の件で宰相職は他家に譲るが、領主は……公爵家は、彼女が継ぐ」
「まあ……」
思った以上に、大っぴらに話せない話題でした。
それにしても私とあまり年が変わらないのに、しかも女性で領主代行とは――見た目同様に、完璧なんですね。感心した私に、シラン様が話の先を続けます。
「彼女は領地にいて、今回の件には加担していない。そう『報告されている』が、一方では彼女が義父の野心を知っていて、けれど公爵家を手に入れる為に黙っていたという噂もある……君は、彼女のことをどう思う?」
えっ、それって何て悪役令嬢? しかもどうって、また答え難い質問を。
昔から、ヒロインの敵役として登場していた存在を思い出してみると、確かにユニフローラ様は(申し訳ないですが)そう見えなくはないですね。と言うか、高笑いとかすごく似合いそうです。
……ですが、それはあくまでも豪奢な『外見』からの印象で。
「私のような平民にも謝罪が出来る、誠実な方だと思いました……ただ、私は今日、初めてお会いしましたので。領主代行を務めていらっしゃるのなら、その領地の方々に聞いてみるのはいかがでしょう? 民の暮らしぶりは、そのまま領主様の人となりだと思います」
領民へのご機嫌取りの施策だったら、最初は良くても不満が出る筈です。けれど逆なら、私が感じた通り誠実な施策が取られていれば高評価間違いなしでしょう。
まあ、それこそフォーム様のように愛と野心が同じくらいある方なら、それだけでは計れないかもしれませんが――その結果として領地が栄えるのなら、国にとっても良いんじゃないかと思うんですよね。まあ、ここまでは言いませんけど。
提案と見せかけての丸投げ(まあ、理由あってのことですが)に、シラン様は軽く琥珀色の目を見張りました。あれ、何かおかしいことを言いました?
そしてふ、と微笑み、私を引き寄せてダンスを終えると。
「可憐なだけではなく、聡明とは……君は、本当に魅力的だな」
「……恐縮です」
わざわざディアスキア語に切り替えて、シラン様はそう言いました。
イケメン貴公子、しかも推しキャラのキラキラオーラを間近で受けたのに、うっかり気が遠くなりかけます。
それに何とか、ロッ○ンマイヤーさんモードで踏み止まって答えました。そんな私を、いえ、私達をユニフローラ様は満面の笑顔で眺めていらっしゃいました。
(本来なら壁の花になんかなれないけど、今は悪役令嬢疑惑のせいで放置ってことか……羨ましい、立ち位置替わってほしい)
脳内でハンカチを噛み締めながら、私はシラン様にエスコートされるままホールを後にしました。




