あ、詰んだ
「どうぞ」
「ありがとう、ございます」
シラン様に声をかけられ、グラスを差し出されたのに私は慌てて受け取りました。こっそり匂いを嗅いで、アルコールではないことにホッとします。
……前世では成人&社会人でしたし、ここ異世界では十五歳から飲酒が認められています。
だから、私も飲めはするのですが――初参加ではありますが、こういう宴ではダンスが必須なのは知っています。コルセットのせいでしっかりは食べられず、更にダンスで回転するとなればそれこそ酔いが回ること必須です。
(……うん、味もなし。ただの果実水ね。流石、シラン様)
紳士なシラン様に感謝しつつ、私は意識してゆっくりと果実水を飲みました。そうしないと、一気飲みしてしまいそうなくらい喉が渇いていたんです。
(初舞踏会で、緊張してたみたいね)
ちなみに下心などある困った方ですと、前世で言うカクテルのようにアルコールを果実水で割り、飲みやすくして飲ませるらしいですからね。まあ、女性の方も手慣れた方ですとそれに乗っかり一夜を楽しむらしいので――衣装や会場は豪華ですが、前世の合コンのようですね。
そんなことを考えていると楽団が奏でる音楽が流れ出し、エルダー様とルナリア様が手を取って中央へと進み出ました。
まずは王族や、宴の主催が。そして二人が一曲踊ると、他の参加者が踊り出します――そこまで考えて、ふと私は気づきました。
(カラオケと同じで、ダンスもノルマとして一曲はこなさなくちゃいけない……そう思っていたけど、ユニフローラ様がいるんなら)
そう思い、手拍子係ならぬ壁の花になれるかと期待を込めて、私はユニフローラ様を見ました。
……そんな私を、ユニフローラ様が先程同様、温かい眼差しと微笑みで見つめ返してきました。
どういうことかと再び戸惑った私に、ユニフローラ様が口を開きます。
「私、読書が好きで。『グロリオーサ物語』も読んでいて」
「え」
「あ、現実とは混合せずに、ちゃんと物語として楽しんでいるわよ? だけど……こうして、物語さながらのお二人を見られるって……いいわねぇ」
そう言って、うっとりとした表情で微笑むユニフローラ様は少女のように可憐でしたが――笑顔で「傍観者希望」と言い切られたのに、私は思わず固まりました。
(え、リア充美女って感じなのに……ユニフローラ様って、二次元オタク的な、見守り気質なの?)
嫌いじゃない、むしろお友達にはなりたいですが、その妄想対象に自分も含まれるとなると話は変わってきます。
「話は終わったかな? そう言えば、姫君に我が国のダンスを教えたのも君なんだってね……一曲、お相手願いますか?」
内心滝汗な私を、マイペースなシラン様が優雅に手を差し出してきてダンスに誘います。
(あ、詰んだ)
王族であり、本日のエスコート役であるシラン様からのそれを、断ることは出来ず――ユニフローラ様に笑顔で見送られ、手を取られて連れられていく私の脳内BGMは勿論『ド○ドナ』でした。




