第一関門突破
今日の宴はルナリア様、そして不本意ですが私のお披露目となります。
男性とは違い、未婚女性が一人で宴に参加することは出来ません。こういう場合は家族が付き従うのが一般的なんですが、私の場合は平民と言うのを差し引いても唯一の家族である父は今、リアトリスなのでエスコートは物理的に無理です。
本音を言うとそれを理由に謹んで辞退したいくらいですが仮にも宴の主賓、更にドレスやアクセサリーを用意して貰った以上、そういう訳にもいかず――だから、シラン様にエスコートされること自体はありがたいのですが。
(……視線が、刺さってくる)
会場に入った途端、一斉に向けられたそれらに内心はともかく、後ずさらなかったり頬が引きつらなかったのはロッテ○マイヤーモードのおかげです。
(まあ、ヒロインが無表情だと好き嫌いが別れるだろうから……小説の中では、微笑んだりかなぁ。いっそモブ視点にして、ヒロインを褒め称えて貰うか)
そんなことを考えた後、私は玉座の前でカーテシーを行ないました。
「ミナ嬢」
一昨日聞いたエルダー様の声に名前を呼ばれ、途端に苗字がないことでざわめきが起こります。とは言え、これは想定内だったので私は顔を上げました。
今日のエルダー様は、そのしなやかな体を白い軍服調の礼服に包み、同じく白いマントを羽織っています。元々が美少年なので、こんな格好をしたら凛々しいやら麗しいやらで大変です。
(シラン様も似合うけど、エルダー様も……ディアスキアの正装、素晴らしすぎる)
そしてその隣には、ディアスキアのドレスを着たルナリア様がいます。
瞳と同じ、鮮やかな緑のドレスはルナリア様の銀髪と白い肌を引き立てていて――可憐です、一人だけでも素敵なのに、二人並ぶと最高です。眼福って、こういうことを言うんでしょうね。
「『緑の乙女』であるあなたが、我が妻となるルナリア姫の師であるとは……会えるのを、楽しみにしていました。ようこそ、ディアスキアへ」
「おそれいります」
途端に先程よりもざわめきが大きくなったのに私は内心、頭を抱えながらも頭を下げて応えました。
平民ということで、周囲から侮られない為の気遣いなんでしょうが――私としては、前世の知識を活かしているだけなので恐縮してしまいます。
(まあ、でもこれで第一関門突破出来たし)
国王であるエルダー様への挨拶が無事、終了したのでこの後は他の来賓が一通り挨拶を終えた後、ダンスが始まります。その間、あるいは踊った後に手に取れるように軽食や飲み物が用意されています。
「シラン様、飲み物を取ってまいりますね」
「それは、私の役目だよ。飲み物だけ? それとも、軽食も取ってこようか?」
「そんな……」
「エスコートは、男の務めだからね」
身分差故に申し出ましたが、楽しげに言われてしまえは断ることも出来ず。
(まあ、うん、気配り上手な男性はモテるよね)
笑顔で立ち去るシラン様に、私はこっそりため息をつきながら壁際に移動することにしましたが。
「お待ちなさい」
そんな私を、きつめな印象ですが綺麗な女性の声が引き止めました。




