何と言うことでしょう
カルーナのドレスの色を、深緑から藍色に変更しました。
アクセサリーや実際に着た時のシルエット、更に歩いたり動いたり(二人の前で、少しだけですがダンスを披露する羽目になりました)した結果、ドレスには更に微調整が加えられ。
着つけ(主にコルセットによる胸囲補正)もですが、昨日のようにユッカ様から目に魔法をかけられた(そして、昨日のようにユッカ様が追い返された)後、化粧もカルーナ様がしてくれることになりました。
本当に、怒涛の三日間でしたが――考えてみれば、前世で読んだ小説だとドレスの他に、ダンスやマナーの勉強も入る場合がありましたが。幸い、私は人に教えられる程度には習得していたので、それらにまで時間を割かれなかったのは良かったです。
(昨日も、力尽きて熟睡だったから……それにしても)
ドレスを着た後、施された化粧により色こそ珍しいですが、それ程大きくない目がきつくならない絶妙さで大きく見えるようになり。口紅を塗って貰った唇も、昔(前世)雑誌などで見た艶ぷるになっています。すっかり貴族のご令嬢に変身した自分に、私は思わず呟きました。
「すごいですね……別人としか、思えません」
「誉めてくれるのは嬉しいがそれ程、濃くしても盛ってもいない。君本来の魅力を引き出しただけだぞ?」
まさに化けたとしか思えないのですが、カルーナ様はそう言ってやれやれと言うように肩を竦めました。
そんな仕種や口調こそ男性めいていますが、今日のカルーナ様はその長い黒髪を高く結い上げ、藍色のシンプルなラインの、けれど生地や刺繍が見事なドレスを身につけています。今日の宴には、ご主人様のパートナーとして出席されるそうです。
……そう、男装の麗人は人妻だったんです。伯爵夫人が働いているなんて、随分進歩的な。女家庭教師である自分を棚に上げて、驚かずにはいられませんでした。
「男臭い環境で生まれ育ったんだが、昔から可愛いものが好きだったんだ。自分では限界があったので、似合う相手を存分に着飾ろうと思ってな」
「さようでございますか」
デザイン画を描いている時や、昨日の微調整の時の勢いを思い出すと、私にはそれだけしか言えませんでした。まあ、確かに眼鏡を外して化粧をされ、オーダーメイドのドレスを着た自分なら――逆に前世の記憶もある為、自分の容姿を客観視出来るので可愛いとは思います。化粧と衣装は、本当に偉大です。
(可愛いって、本当に作れるのね)
そうしみじみとしていると、ドアがノックされました。
「カルーナ、ミナの支度は出来たか?」
「ああ、入っていいぞ」
シラン様の声に、カルーナ様が答えます。
それにしても二人は、と言うかユッカ様も入れて三人は、どういう間柄なんでしょう。少し気になりましたが、こちらから聞くのも失礼なので浮かんだ疑問には蓋をします。
「素晴らしい! 何て、綺麗なんだ!」
「……っ」
それはシラン様の方です、と続く言葉を私は理性を総動員して飲み込みました。前世でも現世でも恋愛経験皆無ですが、仮にも自分を好きだと言ってくれている相手に対して、不用意に言ってはいけないことだけは解ります。
……ディアスキア王族の礼装は、軍服が基調だと聞いてはいました。
いました、が――美形が着る破壊力の凄まじさに、私は目に見えないシャッターを何度も切ってしまいました。脳裏に焼きつけて、いつでも妄想出来るようにです。
(今までは礼装ってくらいしか、解らなかったから……ああ、筆がはかどるわ。それに、そう。今夜は、妄想していた宴を実体験出来る!)
前向きと言うより、現実逃避するように己を奮い立たせました。その際、私のイメージ映像は乙女ゲームスチルの主人公(顔が映らないもの)で決まりです。
誰にともなくそう言って、私は差し出されたシラン様の手に自分の手を重ねました。




