一件落着、ではありますが
魔導士様の蔦は、私やルナリア様を捕らえてはいません。近くにいる男達だけを、的確に拘束しています。
(殺気や害意に反応する、って感じ? そうだとすると……)
フォーム様もまた、捕らえられる側の人間――つまりは、この襲撃に関係していた、いや、おそらくですが手引きした人間という訳で。
ジャッジャッジャーン、ジャッジャッジャーン!
刹那、私の頭の中には某サスペンス劇場のオープニング(本放送は終了してましたが、再放送などでお馴染みなのです)が流れました。
……とは言え、実をいうと「もしかして」とは思っていたんですけどね?
「侍女の方々が、いらっしゃいませんでした」
「ミナ?」
「リアトリスとディアスキアでは、ドレスの流行は違いますが……それでも、コルセットは必須です。今までは、宿泊したお屋敷に侍女の方々がいらっしゃいました。けれど本来なら、ディアスキア側で連れてこられる必要があるんです」
私の名前を読んだルナリア様に、今回の不自然な点を伝えます。
侍女が必要なのは今夜、ルナリア様がリアトリスのドレスからディアスキアのドレスに着替える儀式の為で。一人でつけられない訳ではないですが、貴族の女性は普通、侍女に任せます。まあ、直前に私がついてくることになったので結果としては問題がなくなりましたが。
「フォーム様は、私が来ることになったのも反対されていました……私が平民だと言うのも、勿論でしょうが。今回の襲撃に、巻き込まない為もあったのでは?」
「……だが、実際はこうして君はここにいる」
「それは、シラン様が言い出したからで……だからこそ、シラン様は首謀者ではないと思ったんです」
こうして魔導士様が現れたところを見ると、シラン様はこの襲撃のことをご存知だったのではないかと仮定出来ます。
その上で、シラン様は私を連れてくると言い出したなら――渡してくれたペンダントの加護を想定してかもしれません。ですが、わざわざ私を巻き込んだ(まあ、襲撃された後では呼び寄せるのも難しくなるかもしれませんが)ところを見ると、侍女を連れてこないというのは彼らしくないんです。
……そう、らしいと言うのなら。
戯れならやめるようにとシラン様を止めようとしたり、馬に乗ろうとした私を止めてくれたフォーム様の方が『らしい』んです。
「優しい貴方様が、こんな企てをされたのなら……それは貴方様なりに、ディアスキアやエルダー様のことを思ってでは?」
「……っ!」
私の問いかけにフォーム様は大きく目を見張り、次いで観念したように微笑みました。
「ああ。支えようと思ったのは、嘘ではないよ」
そう、これはフォーム様の本心なのでしょう。
ただし、その支えると言うのが『支配』という意味ならば――思い通りにならないシラン様や、そんな彼が進めようとした他国の皇女との婚儀は許せなかったのでしょう。
ほとんど接点のない私には(ルナリア様を殺そうとしたのは、許せませんが)フォーム様を責めたり、逆に哀れんだりは出来ません。
「はい」
だから、ただその告白を受け止めて――襲撃者達と共に魔導士様に連れられて、フォーム様がこの場から姿を消したのを見送りました。
※
「…………あ」
そこで私は、今は光っていないペンダントのことを思い出しました。
「シラン様、ありがとうございました。おかげで、助か……ええぇっ!?」
そして胸元から引っ張り出し、包んでいた袋から出そうとして――ガーネットが砕けており、紐と金具だけになっていたことに気づいてたまらず絶叫してしまいました。




