だって、私の大切な生徒ですからね
馬を探し、眼鏡越しに視線を巡らせた時、私は剣を振るっているシラン様と、捕まったらしいフォーム様を見ました。
(薄情だけど……まずは、ルナリア様と逃げないと! 謝るのは、それからっ)
剣がぶつかり合う音も、怒鳴り声も怖いです。田舎育ちなので、必要に応じて馬には乗れるようになりましたが――基本、勉強ばかりしてきたインドア眼鏡女子ですので、前世での小説などのように最強・無双な活躍など出来ません。それ故、護衛の騎士様の乗っていた馬を見つけて手綱を掴み、ルナリア様を馬に乗せる為に手を貸そうとしましたが。
「この……逃がすかよ!」
「……っ」
「ミナ!?」
背後から聞こえた怒声と伸びてきた手から咄嗟にルナリア様を庇うと、苛立ったようで左腕をねじ上げられました。悔しいので、声を上げるのだけは何とか堪えましたが正直、無茶苦茶痛いです。
(でも、ルナリア様が乱暴されるよりマシよ)
怒声のせいで、せっかく見つけた馬が逃げてしまいました。腕の痛みと苛立ちから肩越しに振り返り、強面の大男を眼鏡越しに睨みつける
と、分厚いレンズ越しにも伝わったのか思い切り地面に突き飛ばされました。
「生意気な女め! 先に、片づけてやるっ」
「駄目っ……ミナ!?」
そう声を荒げて剣を振り上げた男から私を庇おうと、ルナリア様が前に出ようとしましたが――私は、そんな彼女を抱きしめることで体を張って止めました。
(先にってことは、ルナリア様も殺す気なんだろうけど)
少しでも時間を稼げば、もしかしたらシラン様がルナリア様を助けてくれるかもしれません。まあ、先程見捨てて逃げようとしたのに、我ながら図々しいとは思いますが。
(あの世で何百回でも謝るから、もう生まれ変わらなくていいから、どうかルナリア様だけは……私の生徒だけは、無事で)
そう思いながら、斬られる痛みを覚悟して目を閉じましたが――不思議と、向けた背中に痛みや衝撃がやってくることはなく。
「ぐあっ!」
代わりに何かが弾けるような音と、呻き声が聞こえました。
おそるおそる目を開けて、振り返り――私は眼鏡の奥の目を大きく見張り、思わず声を上げました。
「……えっ?」
赤い光が、私とルナリア様を守るように包んでいます。そして私を斬ろうとした男は、少し離れた場所で気絶しています。
「この光に弾き飛ばされて、倒れたのよ……ミナ、それは何?」
「それ……ですか?」
背中を向けて目を閉じていた私の代わりに、ルナリア様が状況を説明してくれます。そしてそれ、と言われて目線で促されたのは、この光が放たれている私の胸元で。
凶刃から私達を守ってくれたらしい、シラン様から渡されたペンダントを取り出して――私は、ぽつりと呟きました。
「……守護とは、物理的という意味ではないと思うのですが」




