考えてみたけれど
笑顔で話しかけてくるシラン様と、そんな私達を微笑ましく見守るルナリア様と。
一緒の馬車に乗るようになって、三日目。国境に近づいているこの辺りでは、街や村はないので民衆の目はありません。故に手を振るなどのサービスもなく、互いに向き合って馬車に揺られている為、昨日までより会話も(当社比で)増えた状態です。
(まあ、ルナリア様は元々、私を連れて行きたがってたから。私がこのままディアスキアに住むことになったら、万々歳だろうけど……解らないのは、フォーム様)
宰相で、亡き国王夫妻の親友で、独身で。
ルナリア様が嫁ぐから、と私もディアスキア――言葉や文化ではなく、夫となるエルダー様やその周りがどんな方々かを調べました。もっとも、前世と違ってテレビやネットがないのでシラン様同様、噂話を聞くので精一杯でしたが。
(立ち位置と、あと紳士? 内心はともかく、いきなり王族が私みたいな平民にたらし込まれたら、反対するのはむしろ当然だし……でも、その割に邪険にしたりはしないし)
だけど、とそこで私は声に出さずに先を続けました。
(フラグが立つってことは、そうなる理由がどちらかにあるってことよね)
そう、どちらか。シラン様は私の萌え対象ですけれど、だからと言って疑わない訳にはいきません。断っておきますが『悪とか闇の顔を持つのも萌え』だからではないですよ?
……いや、我ながら変なのは自覚していますが。
萌え対象だからこそ、ルナリア様を害そうと思ったとしても嫌いにはならず――ただ、だからこそ遠慮なく疑えると言いますか。それに実際問題として、ルナリア様に危害を加えられては大変ですから二人に鎌をかけようと思ったのです。
「……エルダー様は、どんな御方なんでしょう?」
そんな馬車の中で、不意に切り出した私に他の三人の視線が集中しました。
シラン様とフォーム様の反応は、納得出来ます。確かに、今までは(主にシラン様からですが)話しかけられてから答えてきましたからね。
そして、ルナリア様は――最愛のエルダー様の話が聞けると、我知らず頬を緩めています。
「良い子、だよ……親を亡くした悲しみに負けず、健気に王としての務めを果たそうとしている。宰相としてだけではなく、親友の忘れ形見であるあの子を支えたいと思っているよ」
まず、口を開いたのはフォーム様でした。父性愛を感じさせる言葉に、ルナリア様が感激したように大きな目を輝かせています。
「良い子……まあ、確かに子供だな。姫より一つ年下だし、字が汚い……と言うか、可愛いと言うか。そう言うのを気にして、なかなか姫君に手紙が出せなかったりね。ただ、代筆も嫌だってわがままを言うから……寂しい想いをさせていたら、悪かったね」
けれど、一方のシラン様の言葉にルナリア様はパチリ、と目を見張りました。表情には出しませんが、私も内心驚きました。
(確かに婚約が決まってから、手紙は片手に足りるほどで……しかも、随分と短かったけど。そういうことなの?)
「いえ、お気遣いあ……」
「『お子様』に愛想を尽かせたら、里帰りする前に私のところにおいで? 歓迎するよ」
「……結構です」
可愛いエピソードにお礼を言いかけたルナリア様でしたが、続けられた言葉に一瞬の間の後、にっこりと笑って返しました。いや、ぶった斬る、あるいはシャッターを閉めるが正しいかもしれません。
(ブラックジョークと言うか、何と言うか……そもそも私を口説いているのに、性質が悪いと言うか)
こう思うと私が嫉妬しているようですが、単純に事実だと思うんですよね。複数の女性を口説くのは、イケメンには許されると思いますが――一方で、一途に相手を想う方がより好感度が高い訳ですから。
(いえ、冗談だからの軽口? まあ、ルナリア様に横恋慕するのとフラグ回収は……待って、そもそも仮定が違うの? ルナリア様の危険ばっかり考えてたけど、実はフォーム様が狙われてるとか?)
……慣れないことをするものではありませんね。
考えれば考える程、解らなくなってしまって私はこっそりとため息をつきました。




