しまった、逃げ場がありません
しばらくぶりの更新です。以前、主人公がリアトリスに来るまで数日と書いていましたが、今回の花嫁道中を考えたところでミスに気づき、馬車で一日ほどと修正しています。よろしくお願いします。
リアトリス皇国に来るのに乗った馬車は、無蓋のものでした――前世の感覚だと、荷馬車でしょうか?
今回は、まがりなりにも皇族や他国の王族の方々が乗る馬車なので有蓋で、見た目も豪奢ですし座席にはビロードのクッションもあります。そして、私をリアトリスに運んでくれた馬車はあくまでも移動手段、黙々と目的地に向かうものでしたが、今回は他国に嫁ぐ皇女が乗っていると言うことで一目、ルナリア様を見ようとする民衆が行列を作っていた為、比較的ゆっくりと進んでいきました。
(よし、今回はお尻へのダメージはなさそう。グッジョブ、セレブ馬車!)
前回は、椅子という名の板でしたからね。ただし、私はこの喜びを口に出すことは出来ません。
……ルナリア様だけならまだしも、この馬車にはシラン様やフォーム様も乗っているからです。
(まあ、馬車自体高級品だもんね。元々はルナリア様だけ連れ帰る予定だったら、一台しか用意しないよね)
それでも、最初は同乗せず護衛の方々のように馬に乗る(嗜みとしてではなく、日本だと僻地ほど免許が必要ってアレです。裸馬にも乗れます)と伝えたのですが――意外にも、フォーム様に止められました。
「遠駆け程度ならともかく、何日もでは女性の身には辛いだろう。幸い、四人乗りなのだから君も馬車に乗ると良い」
精神的には、キラキラした方々に数時間囲まれるのも十分、辛いんですが。
流石に、そこまで狙った苛めではないと思うので、私は素直に申し出を受けてひっそりと空気になることを心がけていました。
「夜は、ペンタス男爵の屋敷に泊まるが……ミナは、食べ物は何が好きだい?」
「好きな色は? 花は? ディアスキアに着いたら、すぐに用意するよ……君が、少しでも我が国を好きになってくれると嬉しいな」
もっとも、民衆に手を振るというサービスタイムの合間に、何かと話しかけてくるシラン様のせいでそれも果たせませんでしたが。
「私は君のことを、もっと知りたいんだ」
虫除けスプレーな私ごときに、ここまでラブラブ愛してるな演技を続けるなんて--内心で感心しつつ、私はシラン様に答えました。
「あの、お気遣いなく……そのお気持ちだけで、十分です」
本音を言うとむしろ構わず、放置して頂けるとありがたいです。とは言え、それを伝えてしまうとせっかくのシラン様の努力が無駄になりますからね。
(転んでも、ただじゃ起きないんだから……この自信満々で距離感ゼロな感じを、次の執筆に活かすんだから。そう、私以外のヒロインに対して!)
そんな訳で、心の中でそう呪文を唱えながら、私はやんわりとお断りを入れ続けました。
……おかげで夜、宿泊先のご好意でお風呂を使わせて貰い、食事をした後は気絶するように寝落ちました。




