一難去って
イベリス様は、二十七歳。ルナリア様とは、ちょうど一回り離れています。
歳の差的に、腹違いとも思われるかもしれませんが――ご両親から、それぞれ受け継いだ銀髪緑瞳。更に早々に皇帝の座をイベリス様に譲り、隠居して仲睦まじく過ごされているご夫婦を見たら、そんな勘ぐりは間抜けでしかありません。
「ミナを、ディアスキアへ連れて行くこと自体は賛成です。ルナリアも、心強いでしょうからね」
端整な面差しに微笑みを浮かべながら、ですが、とイベリス様は言葉を続けました。
「ミナは、まだシランどのと出会ったばかり。勿論、親の勧めにより嫁ぐまで夫の顔を知らないこともありますが……それも、娘の幸福を願う親だからこそ。そして私は、そんな親御どのからミナを預かっているのです」
「「…………」」
にこにこ、にこにこ。
笑顔のイベリス様の言葉をシラン様、そしてフォーム様は黙って聞くしかありません。
先程までは、イベリス様が黙っていたのでやり取り出来ましたが――若輩ゆえ、と丁寧な言葉遣いで穏やかに話しているイベリス様は、この場で一番身分が高い訳で。勢いが衰えたとは言え、皇帝陛下は皇帝陛下ですからね。
「更に彼女は、妹を導いてくれた恩人ですから……ミナにはぜひ、幸せになって貰いたい。フォームどの、解って頂けますよね?」
「はっ……」
「それならば、まずはお互いを知る為の時間が必要だと……シランどの、解って頂けますよね?」
「……はい」
言葉としては疑問形ですが、同じことを二回言ったその声の響きは確信であり念押しです。微笑みながらの圧力に、フォーム様とシラン様が頷いたことでこれからの方針は決まりました。
『お互いを知る為に』私は、ルナリア様と共にディアスキアに行くこと。
ただし『お互いを知る為の』妨げにならないように、シラン様が私を見初めた云々は公表せず、表向きは短期留学にすること。
(まあ、確かに『一時の気の迷い』だとしたら、損をするのは女の私か)
王族の『お手つき』だと広まれば、嫁の貰い手がなくなります。まあ、そもそも嫁ぐ気はないのですが、イベリス様からのご厚意を無下にする気はありません。男性相手ですが、何だか『お母さん』みたいです。ありがとうございます、イベリス様。
部屋に戻った後、手を合わせてイベリス様の面影に拝んでいると――扉が、ノックされました。
「……はい?」
『シランだ……少し、話がしたい』
母国語で扉の向こうから声をかけられたのに、私は振り向き様、固まりました。




