安心していました
清楚って、便利な言葉だと思います。飾り気がなく清らかって意味なので、私みたいな『ザ・地味』に言っても(かなり苦しい気はしますが)大嘘にはなりませんからね。
(それに、野に咲く花も花は花……ああ、いや、問題はそこじゃないか)
何故かは解かりませんが、シラン様に目をつけられたみたいです。そして私をディアスキアに連れていく為に、雇い主であるイベリス様方に話を通そうとしていると。
「素敵……」
「ルナリア様?」
「そうしたら、ミナと一緒にディアスキアに行けますよね? お兄様、私からもお願いします!」
今まで、シラン様に物語以上の興味を持っていなかったルナリア様の言葉に最初、勘違いして焦りましたが――つくつぐブレないと言うか、裏切らない方です。安心しました。
(そうよね。旦那様になられるエルダー様を、あれだけ一途に想ってるんだから)
ちなみに『あれだけ』と言うのはこの部屋の壁、あとここからは見えませんが寝室に飾られたエルダー様の絵姿に朝昼晩と事あるごとに話しかけ、彼の目(注・絵姿)を意識して素敵な淑女を目指したことです。そもそも、ディアスキア語やダンスを覚えたのも(嫁ぎ先への礼儀でもありますが)愛する旦那様の為ですからね。
「……シラン? 解っているのかい? ここは、ディアスキアではないのだよ?」
「解っていますよ、フォームどの」
「私は、そうは思えない。彼女は、貴族ではない……他国で、いつもの戯れは通用しないよ?」
フォーム様の言葉に、ルナリア様がハッと息を呑みます。気遣ってくる眼差しに、私は大丈夫だと頷いてみせました。
(だって、事実ですからね)
普通、目上(年齢、もしくは身分)の方との初対面には、家名を含めたフルネームを名乗ります。そこで下の名前だけを名乗るのは、よほど高位の方か礼儀知らず、もしくはそもそも名乗れない平民となるのです。
(それにしても、さっきのフォーム様の話だと自国では、平民とのロマンスもあったってことよね……うん、それはそれで萌えそう)
ただし萌えるのはこんな風に、他人事として聞いたり妄想したりです。萌え対象と自分というのはまるで絵にならないので是非、遠慮したいところです。
そんな訳で、心の中でフォーム様に「いいぞ、もっとやれ」とエールを送っていると――シラン様が、思いがけないことを言い出しました。
「確かに、彼女は貴族ではありませんが……『緑の乙女』ですから、人となりは教会からのお墨付きです」
と――。




