急展開
ルナリア様の部屋にいらっしゃったのは、一人ではありませんでした――ええ、兄上のイベリス様『は』聞いていましたが。確かに、振り返ってみればエンジュさんが『方』と言っていましたが。
(何で……何で、シラン様と宰相……フォーム様まで、いるのよーっ!?)
内心で絶叫しながらも、私はドレスの裾を摘まんで頭を下げました。そして、そのまま目線を上げずにいると、私の耳にディアスキア語が聞こえてきました。
『……彼女が?』
『ええ、そうですよ……なぁ? 俺達の言葉が解るし、話せるよな?』
フォーム様の呟きに答えると、シラン様はそう私に話しかけてきました。それを無視する訳にもいかず、渋々と私は口を開きました。
『……はい、仰る通りです』
『姫君に、ダンスを教えたのも君だろう?』
『はい』
短い返事ではありましたが、顔を上げなくてもフォーム様が驚いているのが解りました。確かに、ダンスやドレスなど華やかな文化が花開いていますが、リアトリスに比べれば新興国ですからね。まあ、今回、平民の私が皇女の家庭教師になれたくらいですから、父の目の付け所は正しかったと実感しましたけれど。
(こうして、嫁入り道具になるくらいだから……ただ、こんな風に悪目立ちするのはちょっとなぁ)
一瞬、父がディアスキア人だと明かそうかと思いましたが、私は何とか踏み止まりました。父から聞いた話を考えると、万が一でも詮索されると困ると思ったからです。
(聞かれたことだけ答えていたら、変なボロも出ないわ)
そう心の中で決意した私の前に、近づいて来たシラン様が立ちます。
舞踏会のまま、来たのでしょう。先程、頭を下げる前に見た姿は正装らしい軍服でした。
「顔を上げて……名前は?」
「……ミナ、と申します」
リアトリス語に切り替えて促されたのに、私は先程同様、渋々とですが答えて顔を上げました。
そんな私に、何故だか眩しいくらいの笑みを向けると――シラン様は、やっぱり何故だか私の手を取って両手で包み込み、ルナリア様方を振り返って言いました。
「どうか私に、この清楚な花を連れ帰るお許しを」
……あ、一人称が変わってる。
そんなことを考えた私は、このとんでもない現状をどこから突っ込んでいいのか解らず、全力で現実逃避をしていました。




