舞踏会の夜(不参加)
皇宮のホールでは、夕刻から舞踏会が開かれています。
同じ敷地内なので、会話はともかく音楽(当然、録音機器はないので生演奏です)は微かに、けれど確かに聞こえてくるのですが――その曲調が変わったのに髪を下ろし、夜着に着替えた私はふ、と頬を緩めました。
(きっとシラン様も、宰相様も驚いたわよね)
私がルナリア様に教えたのは、ディアスキア語の他にもう一つあります。
それが、ディアスキアのダンスで。リアトリスでは、舞踏会ではゆったりとしたワルツを踊るのですが、ディアスキアではもっと早いテンポの――タンゴと言うよりは、フォークダンスに近いですかね? こう、手を繋いでお互いクルクルと回るんです。
(ドレスの裾が翻って、お花みたいなんだろうな)
元々、可憐なルナリア様がシラン様かフォーム様と踊る姿を思うと、とっても胸熱で。とは言え、興奮していては眠れなくなるので私はほう、と息を吐いてクールダウンを図りました。
舞踏会は真夜中まで続きますが、明日、万全の状態で皇宮を後にする為にもしっかり睡眠を取らなければいけません。
「ミナ様、失礼致します」
そう思っていましたが、不意に部屋のドアの向こうからノックされ、声をかけられたのに私は首を傾げました。この声は、女官長のエンジュさんですが――舞踏会を仕切っている筈なのに何故、こんな時間に?
「はい、何でしょう?」
「申し訳ありません。ルナリア様がお呼びです」
「……えっ?」
何故、今夜の主役であるルナリア様から呼び出しがかかったのか解らなかったのと、まさか舞踏会会場に行くのかと焦り、思わず間の抜けた声を上げてしまいました。
「今、ルナリア様は自室に戻られています。陛下方もいらっしゃいます」
「えっ……はい、少しだけお待ち下さい」
ホールに行かなくていいのはホッとしましたが、何故、皇族二人が――疑問はありますが、高貴な方々を待たせる訳にはいかないので私は慌てていつものドレスに着替えました。寝る前だったので、眼鏡もかけたまま。髪だけは、時間短縮の為に首の後ろで束ねるだけにします。
……呼び出しに、気を取られていた私は大切なことを聞き逃していました。
エンジュさんが、イベリス様『方』と言っていたことに。




