おせっかいな妖精
星屑による、星屑のような童話です。よろしければ、お読みくださるとうれしいです。
今回は、ちょっとしょっぱい、ほんわか話です。
冷たい北風が街をかけぬけた、ある冬の夜のことでした。
ベッドで毛布に包まり、ぬくぬくと寝ていたナオミは、急にトイレに行きたくなって、目を覚ましました。毛布から抜け出し、むっくりと起き上がります。
つい半年くらい前までは、お父さん、お母さんと同じ部屋で寝ていた、ナオミ。
一年生になったときに自分の部屋をもらったので、それからは、一人で寝るようになっていました。
部屋は、どんより冷たい空気。
ピンクのパジャマのナオミは、思わずぶるぶるとふるえると、隣の部屋で寝ているお父さんとお母さんを起こさないように、そっと部屋のドアを開けました。
静まり返った廊下を歩いていくと、目の前に、見なれない男の子が立っています。
その姿は、いつか絵本で見た主人公の妖精にそっくり。この真冬に、見るからに寒そうな緑色の薄い布の服と白い半ズボンをはいています。
ナオミは、夢かと思って、思わず目をごしごしとこすりました。
「ぼくは、妖精のポップ。この国の子どもたちの『願いごと』をかなえるため、妖精の国からはるばるやって来たんだ」
「あっ、そうなの」
もらしてしまいそうなナオミにとっては、妖精にかまっている時間はありません。つれない返事です。
けれど、それには気付かない、ポップ。
横を通り過ぎようとするナオミに、ポップが笑顔で語りかけます。
「さっそく、君のお願いをかなえてあげるよ――。何か、お願いはないかい?」
「今、それどころではないの。ちょっとそこをどいて!」
ナオミは、思いもよらぬ言葉をもらって口をあんぐり開けたままのポップを残し、トイレへとかけこみました。
ナオミがトイレから出てくると、ポップはまだそこに、しょんぼりと立っていました。
そんな姿の妖精を見て、ナオミは何かお願いをしてあげたくなりました。そういえばこの間、お父さんが「亡くなった父さんとまたゆっくり話をしてみたいもんだ」と話していたのを思い出します。
「天国のおじいちゃんからの手紙がほしい」
それを聞いたポップはうれしそうにニンマリして、
「おやすいごようさ!」
と言うと、しゅん、という音とともにどこかへ消えていきました。
◇◆◇◆◇◆
次の日、ナオミが学校からもどると、天国にいるはずのおじいちゃんから、本当に手紙が届いていました。
『みんな、元気にしてるか? じいちゃんは天国で元気にやっています。たまには、お墓参りに来ておくれよ。それじゃあね。――じいちゃんより』
この手紙を見たお父さんは、かんかんになって怒りました。
「ひどい、いたずらだ」
お父さんがよろこぶと思っていたナオミはびっくりして、自分が妖精にたのんだとは、とても言えませんでした。
その日の夜。
ぷーすか、気持ちよく眠っていたナオミは、その小さなほっぺたをツンツンつつかれて、目を覚ましました。
「願いごとは、よろこんでもらえたかい?」
ニヤニヤと自信ありげなポップに、ナオミはお父さんがかんかんになって怒ったことを、話しました。
「えっ、そんなはずでは……こ、今度こそだいじょうぶ。もう一つ、お願いしてよ」
ポップがあまりにせがむので、ナオミはしぶしぶ、お願いすることにしました。どうしようか考えると、いつも優しいお母さんの顔が、ナオミの心に浮かびました。
「お母さんが、毎日毎日、ごはんを作るのはたいへん。代わりに、ごはんを作ってあげて」
「うん、わかった。おやすいごようさ!」
ポップは満足そうにうなずいて、すうっと消えていきました。
◇◆◇◆◇◆
また次の日になりました。
ナオミが学校からもどると、お母さんが不思議そうな顔をして、お皿を洗っています。
「いつのまにか、テーブルにお肉やお魚のごちそうが並んでたのよ。気味が悪いから、捨てちゃった!」
お母さんがよろこぶと思っていたナオミはがっかり。自分が妖精にたのんだとは、やっぱり、言えませんでした。
この日の夜もポップはやって来ました。そして、ナオミのほっぺたを、ツンツン。
「今度は、よろこんでもらえた?」
自信満々のポップに、ナオミはお母さんが料理を全部捨ててしまったことを話しました。
「すごいごちそうだったのに……。じゃあ、今度こそ……」
ポップがそう言いかけたときです。
「願いごとなんか、ただのおせっかいよ。もう、ここには来ないで!」
とうとう、ナオミは怒ってしまいました。
すると、さっきまでのあふれんばかりの元気が、ポップの顔や手や足から、まるで穴の開いた風船の空気のように、みるみる、どこかへ抜けて行ってしまいました。
「――それが、キミのお願いかい? おやすいごようさ……」
ポップは、悲しそうな眼をして、ゆらりと消えていきました。
私の本当のお願いはね――
ポップが消えたのを確かめたナオミは、となりの部屋へと、一目散に走っていきました。そして、お母さんの寝ているベッドに、もぐりこんだのです。
「どうしたの? 甘えん坊さんね」
「お願い、今日だけいっしょ!」
ナオミは、お母さんにぎゅっとしがみつきました。ナオミの本当の願いごとがかなったのです。
<おわり>