お嬢様と先生がプロトコールとマナーとエチケットでぶちきれる単元
「ねえ先生、私、いつまでこんなことをしていればいいの?」
お嬢様が先生の耳元で文句を囁く。
「さて、進行役に任せるしかありませんね」
先生も辟易しながらお嬢様に答える。
お嬢様が先生の左側に立つのが儀礼、すなわちプロトコール。
普段はお嬢様が字を書くのに邪魔にならないよう、先生はお嬢様の左後ろに立つ。ところが今日は逆。これが2人共に微妙にうざい。
先生とお嬢様の服装も普段は着ない白と白。これもお嬢様と先生を一層いらいらさせる。
「もう、面倒臭いわね! あそこのオヤジを黙らせたらおしまいでしょ! ちょっと私が行ってくるわ!」
「やめなさいお嬢様! 後ろにご主人様と奥様もいらっしゃるのですよ! そういうのは私がやりますから、お嬢様はお堪え下さい」
「仕方がないわね。ここは先生の顔を立てて我慢してあげる。でも、なんであんなに偉そうなの、あのハゲオヤジ!」
「お嬢様、身体的な特徴を指摘するのはアウトですよ。それに、あのハゲのクソオヤジも敵ではありませんから、とりあえずやりたいようにやらせて流しましょう。ね、お嬢様」
「仕方ないわね」
次にいらいらしたのは2人同時。
ハゲオヤジの生意気な問いかけに「当たり前でしょ!」「当たり前です!」と乱暴に答える。
何かハゲが文句を言いたそうだが、ハゲの耳元で先生が「さっさと進めなさい」と囁くと、観念したかのように続け始めた。
ハゲが指を出せというので、2人ともおとなしく出してやる。
ところが、次の宣言でぶち切れたのは先生。
ハゲオヤジがお嬢様と先生に命じた言葉で収拾がつかなくなった。
「お? 15年間我慢して我慢して我慢してたのを、ここでやれというかこの糞野郎。これまで大事にしてたもんを、なぜ皆の前で晒しものにせにゃならんのだ。やっぱり欧米人の倫理観は糞だな。とりあえず勝負してやるから表に出ろ!」
「先生やめて、ここはそんな場じゃないから! ほら、胸倉掴まれてぶら下がっているハゲのおっさんも涙目になってるでしょ」
「仕方ねえなあ、このハゲ、お嬢様に感謝しろよ」
後ろではご主人様が腹を抱えて大笑い。先生の友人たちもヤンヤヤンヤの歓声。
一方、奥様とお嬢様のお友達たちは真っ青になっている。
そして2人は外に出る。
「お嬢様、準備されていたライスシャワーとやらだけではちまちましているので、身内に他の縁起ものも撒くようにお願いしておきました」
するとそこには、お嬢様のお友達たちが撒く米と、先生の友人たちが撒く餅の雨。可哀想に、完全に先生の友人たちにペースを奪われているお嬢様のお友達たち。
「撒いたお餅、誰が拾うのかしら。まあいいわ。次は私がこれを投げればいいのね。みんな行くわよー!」
思いっきり最前列のお友達に花束を投げつけるお嬢様。これがお友達の頭にノーバウンドでクリーンヒット。思わずよろめく彼女を介抱する先生の友人。
「すごいわ、早速ブストスだかブーケトスとかやらの効果が出たわ」
お嬢様が先生に満面の笑顔で返す。
「お嬢様、ブストスさんは米国きっての女子ソフトボール選手ですよ。まあ、ここではどうでもいいことですけど。それでは、次の席に参りましょうか」
「わかったわ、でも、今からは、先生は先生じゃなくなるわ」
「わかっていますお嬢様。お嬢様こそ覚悟はよろしいですね」
「世界の誰よりも愛してるわ」
「世界で何があろうと一緒だ」
そして始まる披露宴。今日はいつものランチもいりません。
めでたしめでたし。