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ドン。
私が本をを読んでいるとき、ドンという音がした。
何の音だろうか、その音に耳を傾ける。
ドン。
再びその音が響いた。
心臓が跳ねた。
心音がばくばくと耳の中で反射しているように聞こえる。
……この音は知っている。
体が告げていた。
この音は――――、
車に体がぶつかる音。
それは、非情にも家の裏から聞こえてくる。
いつの日か、こんなことがあった。
「かえせよー、かえせよー」
そういう男が家のそばで喚きちらし、車を蹴る。
ブルッ、ブルルルルル……
鉄とアスファルトが擦れる音がして、側溝にタイヤがはまったこと。
それは、3時間もかけてどこかへ行った。
耳には車が近づき遠ざかる音が聞こえた。
良かった。
どこかに行ってくれた。
それを目にするだけで、自分は光の世界からおいだされるだろう。
それだけは勘弁だ。
だから、私はカーテンを閉め、本に集中する。
近くの街道の車が行き交う音がやけに耳につく。
家の裏の道を通る輩も普段に比べると多い気がする。
狂暴な音をたててバイク疾走をしている暴走族もいたりする。
――――これは、世間の闇の音か。
……さあ、もう寝ようか。
今はもう、ねんねの時間。
こんなことはなかった。さあ、こんなことは忘れて寝ようじゃないか。
私は布団に入り、ギュッとそれを握りしめ、目をつぶった。
それを聞いたことーーーー、
後悔はしていない。