大改装
ある日の洞窟。無数のノーム達が白い岩を頭に乗せ、行列をなして坑道を行進していた。
「……おーい、その大きな花崗岩はこっちだ! ここ、この壁に埋め込んで……。ああ、そっちのは石灰岩だな、小さいから他の場所で穴埋めに使ってくれ!」
洞窟内部、複雑に分岐する迷路のような坑道の中で、俺はノームに細かく指示を与えていた。
ノーム達は白い花崗岩や石灰岩を運び、指示のあった場所に向かうと、壁や天井にその岩を埋め込んでいく。
「よし……あらかた準備できたな。一度、均すぞ」
右手中指に嵌めた紅玉の指輪に意識を集中して魔導因子を流し込む。
(――結び直せ――)
紅玉が強く鮮やかに光り輝くのを見て、俺は洞窟の壁に手を付き、術式発動の一声を発した。
『粒界再結晶!』
指輪の紅玉から赤い波紋が発生し、複雑な坑道の壁を舐めるようにして伝わっていく。
波紋が通り過ぎると、脆い土壁へ疎らに埋め込まれた花崗岩と石灰岩が互いに結びつき、まるで王宮か貴族の城のように立派な、白亜の壁となった。花崗岩の斑模様が壁に溶け込んで独特の色合いを出しており、それがまた人工物の野暮ったさを緩和して、自然な洞窟の雰囲気を醸し出していた。
「うむ! 壮観壮観!」
「うわわっ! 豪華だー! 豪華な洞窟だー!」
花崗岩の繋ぎに結晶質の石灰岩を使った事で、継ぎ目が埋まり、より高級感のある壁面になっている。
仕上がりの美しさに満足した俺は、腕を組みながらしばらく洞窟の中を見て回った。ジュエルに至っては滑々の白い壁に頬擦りしていた。
洞窟内の要所にひとまず世界座標が刻み込まれ、地図との一致を確認した後、俺は洞窟の壁や天井を補強する作業にあたっていた。
俺がいない間に掘り進めた坑道は、俺が壁を補強した玄関口と違って、壁や天井が脆く落盤の危険があった。そこで、坑道の壁の補強についても大々的に行うことにしたのだ。
「ねえ、ボス。こっちの坑道は補強しないの?」
「そっちはこれ以上掘り進める予定がないからな。これからは主な坑道を数本に絞って、深く掘り進めていくんだ」
採算が取れるだけの資源が集中して存在する鉱床に辿り着くまでは、無駄に坑道を増やしたり拡張する必要はない。それよりも、鉱床へ行きつく為の通路として、途中で崩れたりしないようにしっかりと補強してやる必要があった。
壁の補強は洞窟を掘り進めて出てきた花崗岩を壁に埋め込み、粒界再結晶の術式で固める。ノームに指示を出して初めからなるべく隙間の少ない状態で花崗岩を埋め込んでもらっていた。
天井は基本アーチを描くように掘っているので補強も壁の延長として行われた。ただ掘られただけの洞窟に比べ、これだけでも随分と立派な内装になる。
坑道の一番奥では灰色毛並みのノームが岩盤を掘り進めていた。
掘り返された石をよく見ると黒色でやや金属光沢を持つのが観察できる。一部は正八面体に近い形状をしており、その特性から磁鉄鉱であることがわかった。鉄の原料となる鉱石だ。
「磁鉄鉱か、これはなかなか純度が高い。ただ捨てるには惜しいな……」
少しずつ採掘され始めた磁鉄鉱は、とりあえず専用の大部屋をジュエルに作らせてからノームにそちらへ運ばせた。
「ボスー、鉄鉱なんて集めてこんなにいっぱいどうするの? 宝石に比べて価値は低いよ~」
「使い道はいくらでもあるさ。今はまだ考えてないが……これだけ大量にあるんだ。放り捨てるのは勿体ないだろう」
「ボスってば、貧乏性~」
「うるさい。貧乏とか言うな。資源を無駄にしたくないだけだ」
いつか、何かに使えるときがくるかもしれない。
そう信じて俺は磁鉄鉱を貯め込むことにした。