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第二の手紙 ~令嬢の婚約破棄事件~  作者: 藤村 としゆき


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8/8

その8・来訪者

 

 ロックスが勢いよくドアを開けると、向こうに張り付いていた誰かが、倒れ込んできた。


「きゃっ!」


 ドアの向こうにいたのはエレナだった。バランスを崩した彼女を、とっさにロックスが支えた。


「エレナ! 何をしておる!」


 コールドストーン卿が怒鳴った。


「何というはしたない真似を! それでもレディか!」


「も、申し訳ありません、お父様!」


 エレナは顔を赤らめ、書斎を出ると廊下を走って行った。

 ロックスは振り向くと、ほほ笑んで肩をすくめた。


「いや、これはとんだところをお見せした、ロックス君。わしはどうも娘を甘やかしすぎたようだ」


「……閣下。どうかエレナ様のお気持ちをお察しください」


「ああ、ロックス君。あとは頼んだよ」


 ロックスが書斎を出ると、執事のジョンソンが待機していた。


「ロックス様、どうぞこちらへ」


 ジョンソンに案内されて廊下を進むと、角からエレナが顔を出した。


「ロックス様、父はいかがでしたか?」


 エレナは不安げな表情で尋ねた。


「アルバート卿の不貞の証拠が必要ですね。エレナ嬢、アルバート卿からの手紙はお持ちですね?」


「は、はい、もちろん持っていますわ」


「直筆の手紙を、何枚か……いえ、全部を預からせてください」


「はい。お待ちください」


 エレナは慌てて部屋に向かった。

 その帰りを待っている最中、ジョンソンが口を開いた。


「ロックス様。どうかお嬢さまをお救いください」


「そのつもりです、ジョンソンさん」


「私は、お嬢さまが幼いころからこの家にお仕えしております。ですから、あのアルバート卿のような……」


 ジョンソンは、いったん言葉を止め、周りを見た。

 

「あのようなお方の所では、エレナお嬢さまはとうていお幸せにはなられません。私に出来る事なら、何なりとお申し付けください、ロックス様」


「ありがとう。ジョンソンさん」


 ロックスの言葉に、ジョンソンは表情が明るくなった。


「それにしても、お嬢さまは最近すこし明るくなられたように感じます。このところ、ずっとふさぎ込んでおられましたから」


「そうなのですか?」


「ロックス様のお陰かもしれません」


「私の?」


「ロックス様なら、何とかしてくださるような気がするのです」


「それは、私を買いかぶりすぎですよ、ジョンソンさん。成功の見込みは五分五分といったところです」


 そう言っているうちに、エレナが戻ってきた。手には手紙の束を持っている。


「これです、ロックス様」


「これが、アルバート卿の直筆の手紙ですね? ちょっとすみませんジョンソンさん。持っていてください」


 ロックスは手紙の束をジョンソンに持たせた。ポケットから拡大鏡を取りだし、手紙を1枚抜きとって、その文字を調べた。


 同じように、ロックスは束から取りだした手紙を、何枚か調べた。


「ふーむ」


 ロックスが唸ると、エレナとジョンソンは顔を見合わせた。


「何かお分かりになりまして?」


 エレナが尋ねると、ロックスは肩をすくめた。


「今は何とも言えません。それでは、今日の所はこれで。出来るだけ早く結果をお知らせします」


 ロックスはジョンソンに案内されて玄関を出ると、待機していた馬車に乗って、ブレッド街に戻った。


 ◆ ◆ ◆


「おかえりなさい、先生。どうでした? 今、コーヒーを淹れますわ」


 ロックスは、シェリーの横を風のように通り過ぎると、机の引き出しに入っているドーレスから奪った手紙を取りだし、机の上に置く。その横に、エレナ嬢から預かったアルバート卿の手紙の束を置いた。


「確かに見たような気がしたが……」


「何がですか? 先生」


「ドーレスから奪った手紙の中にあったんだ。ひょっとして、アルバート卿のものじゃないかというやつが……、これだ」


 その手紙には、宛名も差出人も書かれていない。ただ、イニシャルだけがあった。


「この手紙の内容なら、明らかな不貞の証拠になる。しかも、ひどく卑猥だ。とても貴族の書くようなものじゃない」


「そうなんですか? 先生」


 シェリーが覗きこんだ。


「おっと、シェリー。これは見ちゃいけない。子供には刺激が強すぎる内容だ」


「まあ、先生ったら! あたしはじゅうぶん大人ですよ」


「ともかく、だ。この手紙の筆跡がアルバート卿のものと一致するかどうかだ……」


 ロックスは、拡大鏡を使って、ふたつの手紙の文字を詳細に観察して見比べていると、廊下に足音が聞こえた。重く、大きい足音だ。


 足音は部屋の前で止まり、いきなりドアが開かれた。


「先生!」


 シェリーが小さく叫んだ。入り口には、大柄な男が立ってロックスを睨んでいた。


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