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第二の手紙 ~令嬢の婚約破棄事件~  作者: 藤村 としゆき


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7/8

その7・軒先の雨宿り

 

 ロックスとエレナの2人が書斎に入ると、コールドストーン卿が椅子に座ったままふり返り、威厳に満ちた表情を見せた。


「よくいらした、ミスター・ロックス」


 コールドストーン卿は、立ち上がり、がっしりとした手で、ロックスと握手した。


「光栄です、閣下。見事な美術品ですね」


 ロックスは部屋を見回した。絵画、陶器、彫刻など、さまざまな美術品が飾られている。


「わかるかね?」


「はい。例えばこの陶器は、400年前のジーナ王朝のものですね?」


「ほう。お見事、ロックス君。しかしこれはどうかね?」


「この絵画は、シャイ・ギャバンの後期の作品ですね」


「そう思うかね?」


 コールドストーン卿は、いたずらっぽく微笑んだ。


「しかし、閣下。これは贋作がんさくですね。残念ながら」


「……なんと! その通りだ。わしはどうしてもギャバンの作品が欲しくてな。贋作と知っていて買ったんだ」


「これは、閣下、古代ワシグレ王国のセト金貨ではありませんか。100年前にフィッシュ将軍がルミ国の遠征で発掘したものですね」


「すばらしい、ロックス君。実に見事だ」

 

 卿は、心から驚いたようだ。


「ありがとうございます、閣下。……こちらの肖像画は、奥様でしょうか?」


 ロックスは壁にかかった肖像画に目が行った。


「うむ。これは亡くなった妻のものだ」


「……そうでしたか。もっと美術品の談義を続けたいところですが、そろそろ本題に入りたいと存じます」


「……よかろう。エレナ、外しなさい」


 コールドストーン卿は呼び鈴の紐を引いた。


「で、でも、お父様……!」


「わしはロックス殿と話をする。お前は部屋で待っていなさい」


 エレナは、何かを言いかけて止めると、ロックスの方を見てから、父に従いドアに向かった。

 ドアを開けると、外には執事のジョンソンが待機していた。


「ジョンソン、エレナを部屋に」

 

 コールドストーン卿が言い、ドアが閉まると、ロックスが口を開いた。


「それで、閣下。お話ですが……」


「わかっている、ロックス君。エレナの婚約の件だろう?」


「はい、閣下。アルバート卿との結婚は、あまりにご無体なことかと存じます」


「わしも噂は聞いているんだ、ロックス君。だが、そんな理由だけで婚約を解消できると思うか?」


「ご事情はお察ししますが、閣下。どうかお嬢さまの幸せをお考えください」


「わしがエレナの幸せを考えていないと思うか!」


 コールドストーン卿は、思わず大声を出し、机を叩いた。一瞬、書斎が静まり返ったように感じたが、ロックスは眉一つ動かさない。


「……失礼、ロックス殿。わしは、考えに考えて、アルバート卿との婚約を決めたのだ。それが娘の幸せだと信じて」


「しかし、エレナ様は、そうとう思い詰めておられます。それを救えるのは、アーサー卿と、閣下だけです」


「エレナとアーサー卿のことは知っていたが、よりよい条件であれを嫁がせたかったのだ……。今さらどうにもならんのだ」


「しかし、閣下……」


「これ以上は無駄だ、ロックス。確たる理由がない限り、婚約の解消などできんのだ」


「では閣下。確たる理由とやらがあればよろしいのですね?」


「それはそうだが……いったいどんな?」


「例えば、アルバート卿の不貞の証拠など」


「そんなものがあるというのか?」


「それはこれから探します。ですが、心当たりがあります。成功の割合は五分五分といったところですが」


「……そういうことなら、君に賭けてみよう、ロックス」


「では、これで失礼いたします。早く仕事に取り掛かりたいので」


 ロックスはお辞儀をして、退室しようとしたが。ふいに身体を硬直させた。


「どうしたね? ロックス君」


 卿の言葉に、ロックスは人差し指を口に当てた。


「閣下、失礼ですが、使用人たちは信用できる者たちばかりでしょうか?」


 ロックスは、聞こえるかどうかの小声でささやいた。


「もちろんだ。みな、身元のはっきりした者たちばかりだ」


「では、求人条件を見直される必要があるかもしれませんね」


 ロックスは、足音を立てずに素早くドアに近づく。

 そうっとノブを回し、ほぼ同時に勢いよく開けると、ドアの向こうに張り付いていた誰かが、倒れ込んできた。


「この不届き者め!」


 ロックスが叫んだ。


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