その4・犯人は二人
「わしの部屋にいるのは、いったい誰だ!?」
ドーレスは荒っぽくドアを開けると、部屋にずかずかと入ってきた。
部屋を見渡すが、誰もいない。ドーレスは窓の閉まっているのを確認し、次に金庫も閉まっているのを見ると、机に近づいた。
(まずいな)
その机の下に、ロックスはいた。
(なんとか隙を見て、ドアから出ないと)
ドーレスは鼻をくんくんと鳴らし、部屋の臭いをかいでいる。
臭いをたどるように、ドーレスは机の前に立つと、引き出しの異変に気づいたようだ。
(しまった……!)
引き出しの鍵穴には、ロックスの器具が刺さったままだ。
「これはなんだ? ……誰かが中の手紙を盗んだのか……!?」
ドーレスは呼び鈴の紐を引いた。
(まずいぞ。使用人が来たら、逃げられなくなる)
ロックスは覆面をしている。たとえ見つかっても、強引に逃げ出すこともできる。
使用人の到着を待つ間、ドーレスは再び部屋中を見わたす。
「盗人は逃げたのか? それとも、まだ屋敷にいるのか……? ……ひょっとして、まだこの部屋に……?」
ドーレスはハッとして、机の下をそうっと覗き込んだ。
「旦那さま!」
部屋の外から、執事が大声を出した。ドーレスはそちらを振り向く。
「大変です! この屋敷に賊が入ったようです。今、使用人たちが追っています」
「そいつだ! 何としても捕まえるんだ。どっちに行った?」
ドーレスは、部屋を出ると、執事とともに廊下を走って行った。
──ロックスは机の下から出ると、机の引き出しの鍵穴に入れた道具を抜き、カバンにしまうと、書斎のドアに向かった。
廊下に出ると、耳をすませる。どうやら、使用人たち総出で、賊とやらを追いかけているらしい。
ロックスは彼らとは反対方向に進み、裏口から外に出た。カバンに紐をくくりつけ、塀の向こうに放り投げ、紐を伝って壁をよじ登った。
塀の反対側に降りると、わっと大声が響いた。どうやら、使用人たちが賊と揉み合いになっているようだ。その隙に、ロックスは闇にまぎれた。
◆ ◆ ◆
──翌日、ロックスは、事務所の椅子の背もたれに寄りかかかってコーヒーの香りを楽しんでいた。
「ふう、なんとか依頼は遂行できたな。しかし、あの夜盗のタイミング次第では、危なかった」
目をつむってリラックスしていると、シェリーが飛びこんできた。
「先生、ご覧になりましたか?」
「何をだい? シェリー」
「街報紙の号外です。ドーレス邸に夜盗が入ったそうです」
「ああ、それなら知ってるよ」
ロックスは目を開けずに言った。
「それだけじゃありません。ドーレスが重傷だそうです」
「なんだって!」
ロックスは身体を起こし、街報紙をひったくった。
「……『スリト・ドーレス氏、夜盗に襲われる』だって? じゃあ、あのときの……」
「はい、先生。夜盗はドーレスを刺し、執事に取り押さえられました。ドーレス邸で働いていた、下男だそうです」
「シェリー、もしや、その下男とは……?」
「はい。ジャックです。男は自供しているそうです。ドーレスに恨みがあったと」
「……ドーレスは、遅かれ早かれこうなる運命だったんだ。やつは、方々から恨まれていたからな。……僕にとっては幸運だったが」
「でも先生、依頼は上手くいったんでしょう?」
「まあね。エレナ嬢の依頼した手紙は、この通り……」
ロックスは手紙を見て、急に口をつぐんだ。引き出しから拡大鏡を取りだし、手紙を調べ出した。
手紙を回したり、ひっくり返したりして、様々な角度から詳細に観察した。
しばらく観察を続け、やがて落胆したようにため息をつくと、手紙はロックスの手を離れ、床に落ちた。
「あらら、先生。落としましたよ……」
シェリーが手紙を拾い、テーブルの上に置いた。
「いったいどういうことだろう。僕の任務は失敗だったのか?」
「え? 先生、どうしてですか?」
「その手紙はね、シェリー……」
ロックスは首を振った。
「……偽物なんだよ」




