表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第二の手紙 ~令嬢の婚約破棄事件~  作者: 藤村 としゆき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/4

その2・鏡合わせの悪党


屋敷の門をくぐり、玄関のベルを鳴らすと、ドアが開き執事が現れた。ロックスが名刺を渡すと、しばらく待たされた後、書斎に案内された。


「ようこそ。あなたは、代理人エージェント、もしくは解決屋フィクサーの仕事をしておられる、ゴーディ・ロックスさんですね」


「時には、『便利屋』、『何でも屋』と呼ばれることもありますがね」


 ロックスが答えると、スリト・ドーレスはうすら笑いを浮かべた。身なりこそは紳士だが、悪党であるその心底は、表情に表れている。彼の眼鏡の奥からのぞく眼は、笑っていなかった。


「どんな御用でしょうか? あたしは忙しいのですよ」


「脅し文句を考えるのにかね?」


 ロックスは淡々と言った。


「これは、ロックスさん。ご挨拶ですね。そんな嫌味を言うために来たのですか?」


「エレナ・コールドストーン嬢の手紙を持ってますね? ドーレスさん」


「さあ、どうでしょうか」


 ドーレスは上目遣いで肩をすくめた。


「とぼけても無駄だ、ドーレスさん。目的は、彼女の婚約の破棄でしょう」


「じゃあ、ロックスさんは、それを阻止しにきたのですかな? いったい、誰の依頼で?」


「私が依頼主の名を言うと思ったかね?」


「いいえ、ロックスさん。しかし、それはあたしも同じことですよ」


「ドーレスさん、あなたも依頼主の名を言う気はないと。じゃあ、依頼の目的は?」


「知っているでしょう。婚約の破棄ですよ」


「だから、その目的です」


「知りませんよ。あたしは、依頼主が金さえ払ってくれれば、依頼を実行するだけですよ。余計な詮索はしません。だから、皆さんあたしを頼るんですよ」


 ドーレスは胸を張って言った。


「じゃあ、こうしましょう。依頼主にいくらもらった? 金貨100枚か、200枚か? それとも1000枚か。手紙を返せば、それより多く払おうじゃないか」


 ロックスがまくしたてると、ドーレスは声を出して笑った。


「これは、ロックスさん。あたしが、金で転ぶと思ったのですか? 見くびってもらっては困りますよ」


「ドーレスさん、あなたは金次第でどんな依頼でも受けるのでは?」


「そうです。しかし、一度受けた依頼は必ず遂げます。金で寝返ったとなれば、信用問題なんです。そうなれば、誰もあたしに依頼しませんよ」


「……それは、私とて同じことだ。依頼は必ず遂げる」


「それじゃあ、お話は終わりですね。おい、ロックスさんがお帰りだぞ」


 執事が入ってきても、ロックスは怒りに震えて立ち尽くしていた。


「ロックスさん。早くお帰りください。怒ったふりをして、間取りを見ているんじゃないでしょうね」


 ドーレスがそう言うと、ロックスは無言で振り返り、執事より先に歩き出した。


 ◆ ◆ ◆


「先生、どうでした?」


 ブレッド街の事務所に戻ったロックスを、シェリーが迎えた。

ロックスは、言葉よりもその表情で、ドーレスとの交渉が決裂したことを語っていた。


「皮肉なことに」


 ロックスは椅子に腰を下ろしながら言った。


「悪党は、誰よりも信用できるということだな」


「え?」


「やはり、やつは大した悪党だ。でも、僕に似ているな」


「先生とヤツが似ているんですか?」


「受けた依頼をやり遂げるという点ではね」


「ま、とにかく。交渉は失敗だ。となると、出来る手は限られてくるな」


 ロックスは、そう言いながらシェリーの方を見てウインクした。



 ──3日後の夕方、不可解そうな表情でロックスは事務所に帰ってきた。


「お帰りなさい、先生」


「シェリー。あちこち回ったが、ドーレスの依頼主やその目的は、皆目つかめなかったよ」


「そうですか。それで、あたしの方ですけど」


「上手くいったかい?」


「はい、先生。ドーレスは、規則正しい生活をしています。決まった時間に起きて、食事し、家を出ます。帰ってくる時間も、寝る時間も決まっています」


「でかした、シェリー。君をメイドとして潜入させたかいがあったよ。やつに怪しまれなかったか?」


「あの男、ドーレスは使用人の全員を怪しんでいます。誰も信用しません」


「ますます皮肉だな。信用できる悪党が、誰も信用していないとはね」


「それで、先生、どうするんです? どうやって手紙を?」


「そうだな。例の作戦を実行するとしよう」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ