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この作品は3話で完結する短編です。
渋谷リマには、好きな男性がいた。
幼なじみの優斗だ。
小学生のころから一緒にボールを追いかけて遊んだ仲なのだが、なじみ過ぎた友達感覚は、ときに恋愛感情の微かな兆しを隠してしまう。
ふたりは成長し、別々の高校に進んだ。
なじんでいた何かが強引に断たれて半年以上経ち、何だか切なくなって、ようやくリマは自分が恋に落ちていることを悟った。
今度は幼なじみじゃなくて、ひとりの女性として見て欲しい。そして好きって気持ち、わかって欲しい!
初恋だったリマは、同じクラスの結衣に相談した。
結衣は女子力が高いし、高1にして、男子からの告られ数が二桁に乗ったとか乗らないとか。やっぱり恋のことなら結衣に指南を仰ぐのが一番だ。
そうして承ったアドバイスがこれだった。
「そんならまずアレよ。男の子ってほら、いつもお腹すかしてるじゃん。しかも、その子サッカーやってんでしょ。んならぜったい手料理だって。リマのオリジナル料理でさ、その子の胃袋がっちり掴んじゃえば、きっとリマのこと、特別な女の子だって意識するよ」
なるほど。
恋愛マスターの称号は伊達じゃないな。
女は料理っていう固定観念はちょっとどうかと思うけど、そんなのあとでどうにでもなる。
リマはさっそく料理の勉強を始めた。
目標はクリスマスだ。今までだってうちで一緒に祝ってたんだから高校違ってたって招待するのに不自然なことはない。
だが高1のリマに、オリジナル料理のハードルは高かった。
優斗が好きな食べものを組み合わせちゃえばいい、と単純に考えていたけれど、意外な組み合わせほど相性は悪かった。キムチ味のカレーとか、焼き肉のチョコレートソースとか『おえ~』って感じの試作品をたくさん作ってお母さんに怒られた。
やっぱオリジナルはあきらめて唐揚げとハンバーグで攻めるか、とスマホでレシピ検索しながらため息を吐いていたそのとき、興味深い商品を見つけた。
その商品とは、“なじみ水”
説明によると、この水を使って調理すると、どんな食材の組み合わせでも調和させてしまう、とある。なにこれ魔法の水じゃん。
使った人の感想はどれもべた褒めで胡散臭いとは思ったけれど、ちゃんと最後に『個人の感想です』って書いてあるから安心だ。値段は少し高いけど、これ以上『おえ~』の失敗作を重ねるよりはぜったい安い。
リマは迷わず “なじみ水” 1リットルのペットボトル6本セットを購入した。




