可愛いだけじゃない
「じゃ、私は仕事に戻るわね。何かあったらすぐ呼んでね」
リサリアはパーティーの総指揮を取っているので、ひかりをガルドに引き合わせると会場の巡回に向かった。
「ガルドはお仕事はいいの?」
「ああ、俺はひかりの護衛だ」
「私の?」
「…もしかして、忘れてるのか?ひかりは砦の最重要保護対象だぞ?」
「あ、そうだった」
すっかり忘れていた。
ガルドは苦笑しつつ、まずは何か食べようとテーブルが並ぶ方へ向かった。
立食パーティー形式なので、テーブルにはたくさんの料理が置かれていた。
「わあ、美味しそう」
「あれ、ひかりちゃん。その格好どうしたの?寒いの?」
「あ〜あはは、まあ色々あってね」
エランがケーキを食べながら、ひかりのストールにぐるぐる巻かれている姿に目を丸くした。
ガルドが背中丸見えになるドレスをどうしても受け入れられず、心配が止まらないのでひかりはそのままにしてあげていた。
エランは、ひかりにピッタリ寄り添っているガルドを見て察した。
ヘタレ団長のくせに独占欲が強いんだから。
ひかりちゃんが良くても、これはない。せっかくの可愛さが台無しだ。
「ひかりちゃん、可愛くしてあげる。団長、手を出しちゃダメですよ」
「え?」
そう言ってエランは、ささっとストールを解いた。
グルグル巻きから、斜めに巻いて左肩で結ぶ。
お洒落なケープ風にストールを巻いてあげた。
「うん。よく似合っている」
「エランちゃん、ありがとう」
背中も隠れていて、ガルドも気に入ったようだ。
ひかりも嬉しそうに笑っていた。
「エラーン、こっちも美味いぞー。あれ?団長?」
「カーティス」
「あ!あなたは」
お皿にいくつものケーキを乗せて歩いてきたのは、ひかりが風魔法で暴走した時の助けてくれた団員だった。
短いブラウンの髪を軽く整えて、ジャケットを着てる姿は騎士姿とは印象が違うが、親しみやすい雰囲気だ。
「あの時は、本当にありがとうございました」
「怪我なくてよかったすね。あ、俺はカーティスって言います。エランと同期なんですよ」
深々とお礼をするひかりに、にこやかに返事をするカーティス。
ひかりは、カーティスの言葉で慌てて心配した。
「私より、カーティスさんの方がいっぱい物が当たってましたよね?怪我とかしてませんか?本当にごめんなさい」
その言葉に、カーティスは小さく息を飲んだ。
護衛対象を身体を張って守るのは騎士として当然。しかも、平民の自分を心配してくれるなんてーー初めてだ。
「…全然。身体強化できるから、怪我は何もないですよ」
「そうですか。良かった」
ホッとした様子で微笑むひかりをカーティスは呆然と見つめた。
辺境伯令息の団長から寵愛されて、騎士団から最重要保護対象となっているひかり。自分を守れと命令したっておかしくない。貴族からは、むしろ身体を張って守れと言われるものだった。
なのに、彼女は平民のカーティスの怪我を心配して、あの状況を謝罪してきた。
「ヤバイ。護衛争奪戦になるのわかった」
「でしょ?」
エランはうんうんと頷いた。
ひかりは、相手の階級や生まれで態度を変えない。
誰にでも助けられるとお礼を言うし、危ない時は心配をする。
この世界は、階級世界で性差別もまだ根強い。
騎士の仕事は憧れだからか、王都や他の街では、男の服装をする女性団員のことを揶揄う輩もいた。
女が騎士をやっていても、男の服装をしていても、ひかりは可愛いと褒める。
ズボンはスカートより楽だ。いっぱい買ったと笑い飛ばした。
エランが可愛いものが好きだと言ったら、ひかりは「可愛いカフェを作るのも良いね」と言ってくれた。
小さくて可愛いひかりは、自分たちが超えられない壁をやすやすと飛び越えてくる。
その姿に、ひかりに関わった団員達は憧れるのだ。
「団長、ひかりちゃんの専属護衛に立候補してもいいすか?」
「お前が?珍しいな」
カーティスは騎士団の中でもトップクラスの実力派だ。ひかりが砦で暮らすなら、平民の暮らしを知ってるカーティスは最適だろう。
この男は、あまり自分から積極的に望むことはなかった。実力があっても、平民だからと軽んじる貴族に辟易してたのだ。
「やっぱり、騎士なら尊敬できる主に仕えたいすよね」
「ズルイ!私も!私もひかりちゃん守りたいです!立候補します!」
エランは、ハイハイと手を上げて主張した。
二人を見比べるとガルドは、ふむと考えてから頷いた。
「まあ、砦で暮らすことになるまで精査するからな。考えとく」
「はい。お願いします」
「ひかりちゃん、私が守るね!」
エランとカーティスは、騎士の誇りをひかりに捧げようと心に決めていた。




