かわいいひと
ひかりは、ガルドを見つけても声が掛けれなかった。
少し戸惑った様子でガルドを見ているひかりに、リサリアは不思議そうに声をかけた。
「ひかりちゃん?どうしたの?」
「ん?ううん。なんでもない」
ひかりがへらっと笑ってこちらを見てきた姿に、リサリアは少し考える。
段々とひかりちゃんがわかってきたわ。
不安な時ほど、心配させないように彼女は笑う。
チラリとガルドを見た。辺境伯令息の姿のガルド。
……原因はガルドね?
「ひかりちゃん、ガルドがいるわね!行きましょ!」
「え、でもお話し中だよ?」
「良いのよ。貴族同士は、挨拶しなきゃいけないだけ。ガルド!」
リサリアの声に気付いて、ガルドはこちらを見た。
周りにいた団員たちもひかりたちを見ると、会釈をして離れていく。
ガルドはひかりの姿を見て、幸せそうに微笑んだ。
「ひかり」
ひかりは、いつもの優しいガルドの笑顔にホッとした。おずおずと笑う。
ガルドもひかりの異変にすぐに気付いた。
ひかりが不安がっている?
「リサリア、どうした?」
「うーん、そばにいてあげて」
「それはもちろん。ずっとそばにいるが」
ひかりを守る過保護パパとママが発動した。
子供に気付かれないように相談する姿に、そばにいた団員たちは感心する。
「子育てに慣れてきている」
「ひかりちゃん、どんな娘に育つんだろな」
見た目と年齢が剥離し過ぎてて、もう周りもよくわからなくなってきていた。ひかりはこの団員たちより年上だ。
「ひかり、あっちに美味しい物が沢山あるから食べに行こう」
ガルドは、とりあえずお腹が空いてるならご飯を食べさせようとひかりの背に手を添えた。
「ぴ!!」
ひかりが変な声を発したと同時に、ガルドのそっと添えた手がビシリと固まる。
ガルドはすごい速さでガシッとひかりの肩に手を置き、ぐるっと回転させた。
ひかりは急に後ろ向きにされて、驚きで声が出る。
「うぎゃ!?」
前面はハイネックでスカートはアシンメトリーのヒラヒラドレープの効いているプリンセスライン。
片側だけが短く、歩くと片足の膝が軽く見えるという清楚な雰囲気だが、背面はがっっつり背中が丸見えで、腰までドレスは開いていた。
ガルドはひかりを瞬時にそのまま抱きしめて、背中を隠した。
「リサリア!なんでこんな露出の高いドレスを着せてるんだ!」
「流行りのドレスよ?可愛いでしょう?」
「可愛いけども!ひかりの肌を見ていいのは俺だけだ!」
「生々しい言い方止めなさいよ」
「ひ、ひえ」
ひかりは、ドレスの背中がガッツリ開いていて、抱き締められるとガルドの服が直に当たる。背中にガルドの温もりをリアルに感じて、ひかりには刺激が強すぎた。
「ガ…ガルド…離して」
「っ!?!?」
ひかりは顔を真っ赤にして潤んだ瞳で、抱きしめているガルドの方を振り向き呟いた。
至近距離でみるひかりの表情は艶やかで、ガルドには刺激が強すぎた。一瞬息が止まり、完全にフリーズしてしまう。
「まったく、もう」
リサリアはため息を一つ吐くと、ガルドの腕からひかりを救出した。
自分の持っていたストールをひかりの肩に掛ける。
「これで背中が隠れるわ」
「あ,ありがとう。リサリア」
「ひかり…」
スッとガルドが近付き、ひかりの肩に掛かったストールを手に取ると、ぐるりと巻いた。
ガルドは満足げに頷く。
「これでヨシ」
「良くないわよ。おかしな格好させるんじゃないわよ」
「掛けるだけじゃ心許ないじゃないか!」
他の人に見せたくないと全身で訴えているガルドに、ひかりはたまらずプハッと吹き出した。
「ぷ…ふふ。何このグルグル巻き」
「何言ってる!こうでもしなきゃ見えてしまう!」
「誰も見ないよ?」
「気付いてないだけだ。絶対に見る。俺以外の男がひかりの肌を見るなんて嫌だ」
「そっかあ」
こんなに独占欲を見せられるとこそばゆい。
ガルドはそんなに、私を独り占めしたいのか。
ひかりは顔を赤らめながら、嬉しそうに笑った。
その笑顔はとても愛らしくて、可愛かった。




