乙女の笑顔
「おはよう。ひかり、リサリア」
「おはよう。ガルド」
「あ、私はちょっとヴィーと話があるから先に食べててね?」
「え、う、うん」
ひかりは、何故かいつもと違う席に座らされた。
リサリアは自分のトレーをひかりの席の横に置いて、離れて行った。
いつもの朝の風景。でも、ちょっといつもと違う。
ガルドとひかりは向かい合って朝食を食べていた。
ひかりもガルドもなんだか頬をほんのり染めて、ソワソワしている。
リサリアと行った買い物では、少年になる服以外にちゃんと普通の服も買ってきた。
以前の服は、ひかりの好みに合わせたためシンプルなデザインが多かった。今回は、ひかりの魅力を上げる服をリサリアは選んでいた。
ふふ…恋する乙女は可愛くなっていくものよ!ガルドはなんでも可愛いって言うんでしょうけど。
ひかりちゃんに似合う服を着てもらって自信を付けて、恋を進展させるわ!
そんな目論見にひかりは気付かず、リサリアが選んだ服を着ていた。
いつもより華やかな服。いつものシンプルなブラウスじゃなくて、ボートネックで小さくレースが付いたブラウス。柔らかい生地の淡いブルーのロングスカート。
お化粧もいつもの仕方とは違くて、ピアスもした。
自分でも雰囲気が違うのがわかる。
向こうの世界を思い出す。周りの可愛い子たちが楽しんでやっていたお洒落を今、自分がやっている。
なんか…恥ずかしいな。
変じゃないかな。ガルドは気付くかな。…綺麗って思ってくれるかな。
ガルドは、もちろんーーというか、食堂にひかりが入ってきた瞬間に気付いていた。
可愛いひかりがさらに可愛い。どういうことだ。
昨日の貴族令息ひかりとの差がものすごくて、脳内が混乱していた。
ガルドは、ひかりが可愛すぎて、どうすればいいのか真剣に悩み出した。
以前、どこが好きか、ひかりがどれほど素晴らしいか話したら、夕食の時間は全くこちらを見てくれなかったし、リサリアから離れなかった。言い過ぎは良くないらしい。
ガルドはどう褒めればいいのか、食事をしながら高速で思考を巡らせまくっていた。
「…ひかり。その、いつも可愛いけど、今日はもっと可愛い。綺麗だな」
「えっ。…ありがとう」
ガルドが気付いてくれた嬉しさが心に広がって、ひかりは自然と笑顔になっていた。
嬉しそうに笑ってくれたひかりに、ガルドの心に幸せが広がる。ずっとこの時間が続いてほしい。
「ねえ、あそこお見合いでもしてるの?」
「初々しいでしょう?」
「副団長、あの席に戻れるの?勇気ありますね」
「もう一回、朝食もらってこようかしら」
リサリアはヴィー隊長とエランが食べている席に座って、ニコニコしながらひかりたちの席を見ていた。
ヴィー隊長はブスッとウインナーをフォークで突き刺す。
「甘酸っぱいわねえ。私にもあんな時期があった…っけ?」
「なさそうね」
「えっ、ヴィー隊長マジすか」
まあ無さそうだけども。
リサリアとエランは、ひかりたちのようなヴィー隊長を想像できなかった。
「あるある。思い出すわ、あれは…………だった」
「なさそうね」
「ねえねえ、今度のパーティー何着る?」
「うわ、諦めた」
しょうもないことを話しながらも、3人はひかりたちから目が離せない。
ガルドが、何かを言葉にしたようだ。
少し驚き、ふわりと笑うひかり。照れながらも嬉しそうなのがわかる。
3人は、幸せオーラが溢れた眩しい空間に目を細めた。
周りの団員たちも、ひかりの幸せそうな顔に感動していた。
むさ苦しい団員たちばかりのこの食堂で、癒しが輝いている。
「かっわいいぃ〜!」
「でしょう!!世界一可愛いわ!」
「あれ、付き合ってないの嘘ですよね?」
「えっ!?嘘でしょ!?」
「そうなのよねえ…」
ここまでの状態で、何で恋人同士じゃないのか意味がわからない。なんなんだあの二人。エランには不思議で仕方ない。
「ひかりちゃんが勇気を出すには、デートが良いかしら。いや、パーティーね!周りも恋人がいっぱい!これは盛り上がるわ!」
「そんなにカップル成立率、高かったっけ?」
「ヴィー隊長…かわいそう…」
「酷い!リサリア!エランが酷い!」
ふわふわ幸せオーラが輝いてる二人を見ながら、3人は好き勝手に話していた。




