何でも言うこと聞いた結果
リサリアは、期待に瞳を輝かせて店内のソファに座って待っていた。
「着たよ…」
ひかりの呟きと共に開いた試着室のカーテン。
ベビーピンクのドレスで肩は鈴蘭のように膨らみ、胸元からお腹にかけて、小さなリボンのラインが並ぶ。
腰のあたりからは、ふわりと広がるプリンセスラインのスカートに、たくさんのリボンがあしらわれている、とてもプリティな一着だった。
可愛い少女が憧れる夢見るお姫様な格好を、28歳独身女性(元会社員)桜ひかりが着ていた。日本だと15年ほど着るには遅かったかなあ?と思うデザインである。
ひかりはプルプルと涙目で、唇を引き締めていた。
試着室内の鏡を見て、思わず「きっつう!」と声が出た。
10代の子が着るドレスは、流石に無理がある。
この世界、何で価値観バグってるんだ。
海外旅行経験が無く、日本で年相応にしか見られたことがないひかりは、自分に幼さを全く感じてなかった。
なのにーーーー
「まあ!可愛い!ひかりちゃんとっても似合ってる!」
「本当に!なんて可愛いらしいのでしょう!」
リサリアが頬を染めて、本気で褒めている。
店員さんも買わせるための営業トークには見えなかった。
「ご、後生ですから、購入だけはご勘弁を…」
「何故?王妃様のお茶会に着ていくのも良いと思うわ」
「なんでも言うこと聞くんで、それだけは勘弁してください!!!」
リサリアの部屋を破壊してしまった償いにしても、王族とこの格好でお茶してこいという罰は重すぎる。
「ここでは何でも着ますので、お出掛け用購入は年相応でお願いします!引きこもりになっちゃう!」
「ここでは何でも着てくれて、買わないなら、何でも言うこと聞いてくれるのね?」
「…あっ」
あっ、やっちゃった。
リサリアは、ニッコリと優しい笑顔でずらりと服が並んでる方へ指を刺した。プリティプリンセスドレスがいっぱい並んでいる。
「じゃあ、着てみましょうか♡」
「はあぁあぁぁい、喜んでぇぇえぇ…」
リサリアが満足するまで、ドレスを着た。
膝から崩れ落ち、立ち上がる気力も残っていなかった。
着替えって体力いるんだね。甘さ全開ドレスに気力も削られたけどね。
約束通り、外出用は落ち着いた物を選んでくれた。
そして、最後に今までとは全く趣向が違う服を渡される。
気のせいか、リサリアがなんだか恥ずかしそうにモジモジしている。
「これを着てみてほしいの」
「え?…これ?いいの?」
「嫌かしら」
「? ううん。着てくるね」
試着して、鏡を見たひかりはテンションが上がった。試着室のカーテンが勢いよく開いた。
「リサリア!これ着て帰ってもいい!?」
「え!?」
ーーーーーーー
夕日が落ちていく鍛錬場。
ガルドや団員たちは、鍛錬が終わり引き上げる時間だった。
「ガルド、ただいまー!」
「ああ、ひかり、おかえり…」
手を振ってこちらに向かってくるのは
可愛らしい「少年ひかり」ーーー
「!?」
レースがついたブラウス、リボンタイ、グリーンのジャケット、黒いズボンにブーツ。
可愛い顔立ちの少年、貴族令息がいた。
「ひかり、その格好は?」
「あは、リサリアが選んでくれたの!」
団員たち全員の視線がリサリアに向く。
明後日の方を見て、視線を合わさないリサリア。
「…リサリア」
「……一着だけ、着てもらえないかなあって」
「女の人もズボンはいて良いんだね。スカートよりやっぱり楽だわ。いっぱい買っちゃった!」
「いっぱい!?」
再びリサリアをみんなが見るが、視線が全く合わない。
「…似合わない?変?」
少し残念そうな表情になったひかりに、ガルドは慌てた。
「いや、ひかりはどんな格好しても可愛いよ。そういえば初めて会った時もスカートじゃなかったな」
「え、うん。そうだね」
褒めてくれた、覚えててくれたことにポッと頬を染めるひかり。
はたから見ると、精悍で逞しい騎士とたおやかで可愛らしい貴族令息の二人。片方は愛しそうに見つめて、もう片方は嬉しそうに頬を染めている。
背後には、花が咲き誇っているように見える。
「なんてことするの!?副団長!!」
「副団長!危険な扉を用意するのやめてくれます!?俺たちをどこに連れて行きたいんすか!!」
男女共に団員たちは、リサリアに抗議した。
リサリアは、ちょっとだけ少年ひかりを見たかったのだが、流石に反省したのだった。




