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異世界では小さいねと可愛がられてます  作者: とりとり


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異世界人の魔法

声が聞こえる…男の人の声…誰?ガルド?


「魔力はちゃんと回復してきてますね。魔力枯渇の症状はもう起きないと思いますよ」


「言葉は…何故通じなくなったのか、わからないのか?」

「うーん、なんとなく想像は付きますけど。ひかりさんが目を覚まして、会話してみないとわからないですね」

「でも、言葉が通じないショックがまた…」

「まあまあ。高ランクの鎮静液剤を用意してありますから。その時は、また休ませましょう」


……あれ?言っていることがわかる。


ひかりはパチッと目を覚ますと、起き上がった。


「おや、お目覚めですね」

「ひかり!…俺の言葉はわかるか?」


初めて見る男の人とガルドがいた。

心配そうにガルドはこちらを見つめている。


「うん、わかる。ガルド…私の言ってること…わかる?」

「ああ!わかるよ。ちゃんとわかる…よかった」


そう言って、ガルドはひかりを優しく抱きしめた。ひかりは涙を堪えながら、ガルドの肩に顔を埋めた。


「良かったですねえ。それじゃ、ちょっとお話よろしいですか?」

「ああ、頼む。ひかり、彼は魔塔主の魔術師ガーランドだ。ひかりの魔力について診てもらう為に来てもらった」


潤んだ瞳を、ガーランドに向けた。

金色の目をした若い青年は、長い銀髪を緩く後ろでまとめ、いかにも魔法使いらしいロングケープを着ていた。見た目は若いが、話し方は老練だ。


「ひかりさん、手のひらの記号。それはあなたの世界の文字ですか?」


ガーランドはひかりの手を指差した。

ひかりは手のひらを見ると「桜ひかり」と日本語で書かれたままの文字があった。


「はい…私の国の文字です」

「ふむ。では、こちらに同じように書いてもらえますか?」


ヒラリと紙とペンを出して、ひかりに渡す。

ひかりが、緊張した面持ちで文字を書いていくと同時に、この世界の文字に変化していく。


「ああ、やはり。異世界人の言語能力は、神が与えた奇跡ではない。魔法による物だったのですね」

「え?魔法?」

「ええ。ひかりさんは、この世界の人間と意思疎通ができるよう常時魔法を発動しています。だから、魔力枯渇をした時に、言葉が通じなくなったのです」


そう話すと、ガーランドはふわりと古い巻物を手の上に出現させた。それは、日本の昔話に出るような見た目をしていた。

しゅるりと開き、ひかりに見せる。

そこには、筆で書かれた日本語だった。達筆で、几帳面さを感じる文字。


「これは、はるか昔に異世界人が残した書物です。この異世界人は、あなたのように魔力枯渇を経験していました。

魔法にとても興味を持っていて、何度も起こしていたようですよ?」

「何度も?」


一度ですら、ひかりは恐怖でパニックを起こしたのに、この人は何度も体験していたと言われて驚いた。


「言葉がわからないなら、学べばいいと思ったようです。これは、この世界の言葉を異世界人の言葉に変えたものらしいですよ」


ガーランドはそう言って、ひかりに巻き物を渡した。

巻き物には単語と意味、使い方が書かれていた。まるで日本人用の辞書のようだった。

最後の方に一文が書いてあった。


ーーもし、私と同じような人間が現れたなら、渡してやってくれ。きっと役に立つだろうーー


ひかりの瞳からポトポトと涙が落ちた。


一人じゃない。私だけじゃない。

同じ世界の人が、ここにいた。ここにいて、いいんだ。


「そちらは複製品なので、ひかりさんがお持ちください。巻き物を理解する人間が現れて、渡せる日が訪れるとは思いませんでしたよ。この方は、先見の明がありますねえ」


ニッコリと楽しそうにガーランドは笑った。


「魔力枯渇が怖いのならば、魔力は言語魔法だけに集中させて、なるべく他の魔法は使わないことです。常時発動できるから魔力量は相当ですが、枯渇した時のリスクが高すぎますからね」

「はい。ありがとうございます…」


涙を拭きながら、ひかりは笑顔でガーランドに頷いた。


「何かありましたら、私に連絡してください。異世界人について、私は興味がありましてね。昔話を沢山知っていますので、お役に立てるかもしれません」

「はい。本当に、ありがとうございました」


深々とひかりがお辞儀をすると、ガーランドは優しく頭を撫でた。


「あなたは、よく似てますねえ」

「え?」

「こちらこそ、思い出させてくれてありがとうございます」


ひかりを優しく見つめるガーランドは、こちらを見ているようで、その先に誰かを見ている気がした。

ガーランドの瞳に、切ない色が見えたのは気のせいだろうか。


「では、これで失礼します」


静かにガルドへお辞儀をすると、ガーランドの足元にふわりと術式が浮かび上がった。

ガーランドの身体は、光る砂山が崩れるようにサラサラと消えていった。




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