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異世界では小さいねと可愛がられてます  作者: とりとり


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途切れた世界

ふと目を覚ますと、見たことがない天井だった。

頭がぼんやりする。フワフワして、眩暈が起きているようだった。


どこ?ここ。


「ーーーヒカリーーーー」


ガルドの声がする。

手を誰かに握られているのに気付いた。

目を動かすと、ガルドが心配そうな顔でこちらを見ている。リサリアも横にいた。


「ーーーーーーーー」


「がるど?」


何か言っている。聞き取れない。何を言っているの?


「がるど、もう一回言って」


ひかりが頼むと、ガルドは目を見開いて驚いていた。


「どうしたの?」


「ーーーーーーーーー?」


ガルドの口が動いている。声が聞こえる。

………言葉が、理解できない。


頭が冴えてきて、顔が強張っていく。

ガルドの手をぎゅうと握る。身体が震える。


声を出すのが怖い。


リサリアが優しく声をかけてきた。


「ヒカリ、ーーーーーーー」


ひかりは耐えられなくて起き上がり、周りを見た。


書く物、書く物はどこ?


医師の胸元のポケットにペンがあった。


「ペン!ペンを貸してください!」


ひかりが必死に訴えても、医師は戸惑うばかりで動かない。

もどかしくて、ひかりはベッドから飛び出した。眩暈でふらつくが構わずに、医師のペンを奪い取った。

驚いたリサリアが声をかける。


「ヒカリーーー!?ーーーーー!」


紙が見つからないので、手のひらに文字を書いた。


桜ひかり


文字は変わらない。日本語のまま。


足の力が抜けて座り込んだ。

いつかこの世界の文字に変わるかもしれないと見つめる手は、ずっと震えている。涙がポタポタと落ちていく。


今、この世界に私の言葉を理解できる人間は存在しない。

ガルドたちの言葉も、何が正しいのかわからない。


この世界から、拒絶された気がした。


「いや…いやああああ!」


「ヒカリ!ーーー!ーーー!ーーーーー!」」


頭を抱えて叫び出したひかりを、ガルドが抱き締めるが、ひかりはなんの反応を示さない。


もうひかりには何もわからなくなっていた。ただ泣き叫んでいた。


助けて!助けて!誰か!誰か…


ガルドやリサリアは、何かを叫んでいた。

周りが慌ただしく動く。

頭を抱えていた腕を掴まれ、無理矢理引き剥がされた。


一瞬だけ、ガルドと目が合う。


ひかりの意識は、そこで途切れた。


ーーーーー


ひかりは、魔力暴走を起こして病室に寝かされていた。


「初めて使う魔力で暴走を起こしたので、魔力枯渇状態になっています。目眩や吐き気の症状が出るかもしれません」


ガルドとリサリアは、医師からそう説明を受けた。

鍛錬場にいた二人に、団員たちが大慌てで報告に来た時は驚いた。

リサリアの部屋は、ぐちゃぐちゃにかき混ぜられたような状態で崩壊していた。


ひかりの手を握り、ガルドは眠っている姿を見ていると、瞼がゆっくり開いた。


「もう大丈夫だ。ひかり、気分は悪くないか?

具合が悪いのは魔力枯渇だから、時間が経てば治るからな」


「がるど?」


ひかりはゆっくりこちらを見て、ぽそりと呟いた。

つたない話し方で、ぼんやりとしている。まだ意識がはっきりしてないのかもしれない。


「もう少し眠ろう。休めば楽になる」


「がるど、ーーーーーー」


ひかりは、聞いたことがない言葉を話した。

聞き取れないだけか?意識が混濁しているだけ?


「ーーーーー?」


はっきりと何かを言っている。嫌な予感がした。


「俺の言葉は…わかるか?」


ひかりの表情が強張っていく。

俺が握っていたひかりの手は、縋るように力を込めて震えていた。

リサリアはひかりの異変を察し、落ち着かせようと声をかけた。


「ひかりちゃん、もう少し休みましょう」


その声かけが引き金になったように、ひかりは必死の顔で起き上がった。

辺りを見回し、医師に気付くと何かを言い出した。


「ーー!ーーーーーーー!」


誰も動けなかった。

ひかりの言葉を誰も理解できない。


ひかりはベッドから飛び出した。

ふらつきながら医師の胸元のペンを奪い取る。

リサリアはひかりの行動に驚いて声をかける。


「ひかりちゃん!?落ち着いて!」


再び周りを見回した後、ひかりは手のひらに何かを書いた。

ガタガタと手が震えていて、息が荒い。

ふらりとひかりは床に座り込んだ。


涙がとめどなく溢れて流れている。

ひかりの表情が、絶望の色に染まった。


「イヤ…イヤアアアア!」


頭を抱えて絶叫するひかりに、ガルドが必死に抱き締めた。


「ひかり!落ち着け!大丈夫だ!大丈夫だから!」

「ーーーー!ーーーー!ーーーー!」


ガルドには言葉がわからなくても、ひかりの慟哭は恐怖の色を帯びているのがわかった。


「高ランクの鎮静液剤を出して!今すぐに!」

「魔術師を呼んで!緊急で連れて来なさい!」

「団長!ひかりさんに鎮静液剤を飲ませます。顔を出させてください!」


頭を抱え込んでいたひかりの腕を無理やり引き剥がした。


一瞬、ひかりと目が合った。


医師が薬を飲ませる。

強力な鎮静液剤を飲ませたので、すぐにひかりは意識を手離した。


力が抜けて、倒れそうになるひかりをガルドは抱え込む。


腕がぱたりと落ちた。

手のひらには、見たこともない記号のようなものが書かれていた。




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