魔法使えちゃった
ひかりは、王城から届いた本をベッドの上に広げて、改めて確認していた。
読書好きなひかりは、ついつい分析しながら中身を確認してしまう。
子供用教材は、文字の書き方、数え方。
うーん、単位が日本と違って少ない。物によって呼び方が変わりすぎる日本が特殊なんだっけ?
うっかり言っちゃっても、勝手に翻訳されるのかな。
地理や社会は全くわからない。地名を覚えたり、貴族社会については、この子供用からやった方がいいね。
ふんふんと時間を忘れて、本の中身を調べていた。テレビもネットもない世界は、娯楽が少ない。本が一番楽しめる。
小説は、恋愛小説と冒険小説だった。
恋愛小説は高校生ぶりだ。大人になったら、他のジャンルが楽しすぎて読まなくなっていた。
大人になって読むと、感じ方違うよね。
絵本は、子供への教育的な物語だな。
悪い子は悲しい目に合い、良い子は幸せになる。そんな内容だった。
「もう一冊は…魔法の本?」
魔法とはどうやって使われるか、魔道具とは何か。子供向けの絵本があった。
「身体に魔力を流して…ガルドが教えてくれたやつだ」
あの時、手を繋いだガルドから私の中に温かい何かが入ってきた。
漫画やアニメで、身体に不思議なチカラが流れる表現なんて、ファンタジー物ではよくある話だ。
ひかりは目を瞑って、心臓から身体に魔力が流れるのを想像した。
………そんで、どうすればいいんだ?なんか自由自在に出すとかなんとか。身体に纏わせて浮いてみたり?
ガンッ
「いたぁっ!?なに!?」
そんな事を想像してたら、思い切り頭に硬いものが当たった。
上を見たら、ゴリリと頭に板を押し付けられてるような感触。
「へ?」
一面の壁、もとい天井。
下には、本が広がっているのが見える。
さっき座っていたはずのベッドが遠い。
浮いてる!?魔法できた?すごい!すごいけど!
「わあ……どうやって降りるの!?」
下にはベッドがあるけど、この高さから落ちたら足がヤバくない?
違う。足から落ちれたらまだ良い方じゃない!?
頭からいったら死ぬんじゃない!?
そう恐怖に慄いた瞬間、足元から凄まじい風の音がした。
ゴオオッと音を立てながら、竜巻のように渦を巻き、部屋中の物が風に飛ばされていく。
本が窓に向かって吹き飛び、パリーンと割れた。
「ギャーーーッ!窓!!なんで風吹いてんの!?」
まるで洗濯機の中にいるかのように、ぐるぐると風が吹いて家の物が舞い、自分も風に吹き飛ばされそうになっていた。
物がぶつかってくるのを必死で腕で防いでいた。
ドンドン!と扉を叩く音がした。
「ひかりちゃん!どうした!?開けるよ!」
短く刈り上げた明るいブラウンの髪をした男性が、扉を叩き壊して入ってきた。
団員の服を着た男は、部屋の惨状に目を丸くした。
「うううわ!?なんだ!?」
「助けてぇ!!」
「え?うわっ!?」
ひかりが助けを求めた瞬間、彼の身体は引っぱられるように部屋の中に引きずられ、宙に浮いた。
男は咄嗟に身体強化をして、吹き飛ばされている物が飛んできたら叩き落とした。
壁にぶつかる前に体制を整えて蹴り付け、ひかりの方へ飛んだ。
ひかりを抱き締めて、下に降りようとしても、強い力に押し上げられていて降りられない。
他の団員たちも入ってきて、強力な風魔法に驚いていた。
入り口にいる一人が叫んだ。
「ひかりちゃん!どうして風魔法が発動してる!?」
「魔法で体が浮いたら、勝手に風吹いちゃいましたーー!!」
「え!!これひかりちゃんの魔法!?」
ひかりは、物が当たらないように守ってくれている団員に必死に話す。
「魔法ってどうやって止めるんですか!」
「ええっ止め方!?な、なんとなく!?」
「そんなあ!」
この世界で魔力のある人間は、幼児の時から使いこなせるようになっている。
どうやってるの?なんて言われても、当たり前すぎて答えられない。
「おい!カーティス!これ魔力暴走じゃないか!?」
下の方から団員が大声で問いかけてくる。
カーティスと呼ばれた男は、ひかりを慌てて見た。
こんなに物凄い量の魔力を放出したら、普通はすぐに魔力枯渇を起こして気を失う。
「ひかりちゃん!この状態はいつからやってる!?」
「いつからって…」
そう言ってる間に、ひかりはぐらりと眩暈を起こした。
「う…わ?」
「やっば!おい!落ちるぞ!!」
カーティスが下にいる連中に叫ぶと同時に、風に吹き飛ばされていた物たちと二人は床へ落ちていった。




