誰の色?
次の日の昼。
ひかりが食堂でガルドとエランと食事をしていた時に、リサリアは実家から戻ってきた。
「リサリア、おかえりなさい」
「ただいま、ひかりちゃん!エランなにも変わったことはなかった?」
「ええ、何事もなく過ごしました」
リサリアはエランの報告を聞きながら、色んな袋や大きな箱をテーブルにドンと置く。
「すごい荷物だな」
「そうなの。ガルド、これ団員たちに食べてもらって。袋の中にもお菓子があるわ」
リサリアはそう言って、大きな箱の蓋を開けた。
美味しそうなクッキーがいっぱい入っている。
「ひかりちゃんには、これね」
リサリアは、ひかりにぬいぐるみを渡す。
ぽすりと渡されたのは、ダークブロンド色のふわふわな毛並みのクマのぬいぐるみ。50cmはあって、中々の大きさだ。
「ぬいぐるみ?」
「そう。姉は外国に嫁いでいてね、そこで作られたぬいぐるみ。お土産だって渡されたのよ。
ひかりちゃん、可愛い物を作って売るって言ってたでしょ?あげる!参考になるんじゃないかな」
「いいの?」
「もちろん。姉は、今だに私のことを小さな女の子だと思ってたのよ。困っちゃうわ」
「あはっ。リサリア、可愛がられてるね」
微笑ましく思いながら、ぬいぐるみを改めて見る。
キレイな色の触り心地のいいクマさん。
「あれ?ひかりちゃん、そのぬいぐるみ…」
エランがふと呟く。
リサリアも、ぬいぐるみを見て目を丸くした。
騎士団の食堂には、逞しい騎士達が大勢いる。
そんな中で小柄なひかりが、フワフワのぬいぐるみを持つ姿はかなり目立った。
だから、みんなが気付いた。ガルドも気付いた。
ひかりだけが気付いてない。
このぬいぐるみーーーー
俺の髪色に似てる?
ガルドの髪色と同じ?
団長の髪の色そっくりじゃない?
ひかりはぬいぐるみをじっと見つめた後、ギュッと抱きしめ、目を瞑って頬ずりをした。
「ふふっ。可愛い!抱き心地もいい。大切にするね!」
「!!」
リサリアは、口を手で覆って叫ぶのを我慢する。
ガルドは、すごい速さで両手で顔を覆って俯いた。
エランも団員たちも、一斉に顔を背けた。
スリスリとぬいぐるみのふかふか感を堪能していたひかりは、周りの異変に気付いた。
「ん?どうしたの?」
「そ…それは、部屋に早く持っていきましょうね!」
リサリアは、頬を少し赤らめながら慌てて言った。
エランは、何故かそっぽを向いて震えている。
「あ、そうだね。汚れちゃったら大変。…ガルド、どうしたの?」
「………ナンデモ…ナイ……」
「?」
ガルドは少し顔を上げて、ひかりをチラリと見たが、手で顔を隠したまま再び俯いた。
自分と同じ髪色のぬいぐるみをぎゅうと抱きしめ続けているひかり。理性を総動員しても、頭の中が忙しくて直視できない。
相手の色を持ったり纏うのは、夫婦がすることだ。
恋人でも、婚約が決まっていないとやらない。
私の色は貴方のもの。
貴方の色は私のもの。
そんな特別な行為。
何も知らずにみんなの前で、盛大にガルドへ愛の告白をしていたひかりだった。
その事実を本人が知るのは、ずっとずっと先の話。




