同担拒否なので!
リサリアは、久しぶりに実家のロズウィータ侯爵家に帰ってきた。
「ただいま、みんな!」
「おかえりなさいませ。お嬢様」
「おかえり、リア!」
「可愛い私のリア!会いたかったわ!」
侯爵家で少し歳の離れた末娘のリサリアは、家族からも使用人たちからも、とても可愛がられていた。
二人の兄と三人の姉は、久しぶりに会う妹にプレゼントをこれでもかと渡してくる。
外国に嫁いでいる一番上の姉は、数々のプレゼントの他に大きめのクマのぬいぐるみを渡す。
「ぬいぐるみ?」
「ええ!リアはクマさんのぬいぐるみと一緒に寝てたでしょ?」
「姉様、それは小さい頃ですわ。もう大人よ?」
「まあ、リアはいつの間にそんな大きくなったの?じゃあ、次はクマの形の宝石にするわね!」
「姉様、クマから離れて?」
リサリアそっくりの姉は、ころころと笑う。
久しぶりの家族揃った団欒に、リサリアは心が温かくなった。
こうやって家族が集まるのは、やっぱり楽しいわ。
リサリアはずっと笑顔で、プレゼントを開けながらみんなと話していた。
ーーー楽しく夕食を済ませた後、リサリアは父に呼ばれた。
執務室の扉をコンコンとノックする。
「お父様、リサリアよ」
「ああ、お入り」
執務室に入ると、リサリアの父は笑顔で迎えた。
可愛い末娘のエスコートをしてソファに座らせ、紅茶を出す。
リサリアが、ひかりを甲斐甲斐しく世話する姿そっくりだった。
「さて。なんの話か、リアはきっと気付いているね?」
ニコニコ、ワクワク。
侯爵家当主エルリック・ロズウィータは、期待の籠った瞳でリサリアを見つめる。
「教えてくれるかい?ひかり嬢のこと」
「うふふ、ダメよ。お父様、ひかりちゃんはあげないわ」
リサリアはニッコリ笑って拒絶した。
エルリックは目を見開いた。
普段、執着することがないリサリアが、ハッキリと言ったのだ。
「リア?お前、もしかして…」
「ふふっ、見つけちゃったの。私の宝物」
うっとりしながら、リサリアは瞳を輝かせ、頬を染める。
侯爵家は外交を担う一族。
世界中の珍しいモノを見て審美眼を磨くので、目利きの能力が高い。
そして、何よりパトロン気質だ。
人でも物でも、気に入ったら全力で支援する。育てて磨き上げる。
目利きの自信があるため、飽きることなど絶対にない。
執着がすごいので、一族の誰かがパトロンすると決めたら、他の者は勝手な手出し無用がルールだった。
ある者は、一人の子供を育てることに全力を注いだ。教育環境を整えるのに、国を巻き込んだ。
ある者は、美しい器に惚れ込んだ。職人を囲い、育て、国中に器の価値を知らしめた。
歌姫、学者、植物、動物ーーー
心に決めたら、その対象が最高の結果になるまで守り育てる。
たとえ同じ一族でも、邪魔をする人間は許さない。
一度、壮絶な権利争いが起きたという。
だから先代たちは、勝手な手出しは無用と決めたのだ。
宣言は絶対で、先に声を上げた者が権利を持つ。
だが、争いは一度きりで、不思議と一族の中で対象が被ることが無かった。
誰かが声を上げた瞬間、他の一族の強い興味は消えていた。
今、リサリアは宣言をした。
「ひかりちゃんは、あげないわ」
エルリックの瞳から、強い興味が緩やかになっていく。
リサリアは満足気に、父の表情を見つめていた。
「ひかり嬢は、そんなに魅力的なのかい?」
「とっても可愛くて愛らしいわ!ガルドのことが好きなのに、初恋もまだで、恋を知らなかったの!!
信じられる!?私、彼女の恋に気付く瞬間に立ち合っちゃったのよ!
っきゃー!!今思い出しても胸がときめくわ!
ガルドと両想いになったのに、どうすれば良いかわかんないみたいなのーーー!かっわいいーーー!」
ただの恋バナである。
父親に向かって、推しの恋バナをマシンガントークする娘。
一族誰しも、推しの話をさせると大体こんな感じなので、エルリックはうんうんと笑顔で聞いてあげていた。




