ガルド
ひかりがリサリアに上機嫌に連れていかれる姿を、ガルドは気の毒そうに見送った。
部屋に戻ると寝巻きから着替え、執務室へ戻った。
さらさらと書状を書き終えると、机の上にある水晶に手を当てる。
少し経つと扉をノックする音が響いた。
「入れ」
「お呼びですか。団長」
短く刈り上げたブラウンの髪に、グレーのつり目をした諜報部隊の団員が、するりと入ってくる。
「これを陛下に。早急に渡してくれ」
「了解です。異世界人の子についてですよね?」
「ああ」
「当分はここに?」
「そうなるだろうな。どんな人間か見極めてから王城へ連れていく」
「わかりました。失礼します」
団員は一礼し、静かに部屋から出て行った。
ガルドは椅子に深く腰掛け、溜め息を吐く。
陛下からの返事次第では、騎士団の動きを見直さねばならない。
異世界人は、昔から伝説やおとぎ話のように語られていたが、まさか本当に現れるとは思わなかった。
だが、現れていたからこそ王家から「守り必ず報告せよ」と勅令が残されていたのだろう。
ひかりの無垢な顔が脳裏に浮かぶ。
素直で警戒心も薄く、とても同い年には見えない。異世界人は歳の取り方が違うのだろうか?
あれで裏の顔があるなら、とんでもない逸材だ。
だが、裏もないならば、しっかり守らなければならない。
ーーー悲しい顔はさせたくない。
日が変わりそうな時刻になって、やっとガルドは自室に戻りベッドに身を横たえた。
ふと、この部屋にいたひかりの姿を思い出す。
大き過ぎてずり落ちていたシャツから覗く、華奢な首と細い腕。
女性にしてはかなり短いが艶やかな黒髪、そして真っ直ぐに見つめてくる黒い瞳。
この世界では、女性が男の服装をすることは稀だ。
騎士や冒険者、運動する場じゃない限りスカートやワンピースを身にまとう。
男物の寝巻きを着るなど、妙齢の女性なら尚更あり得ない。
短い髪に上下揃いのズボン姿だったひかりを、ただのか弱い少年だと思っていた。だから「同い年」と言われて本当に驚いた。
騎士団や貴族の中に、あんなにあどけなく見える同年代の女性など見た事がない。
着替えを終えて出てきたひかりは、華奢な身体に女性的なラインを覗かせていた。その上、ガルドの寝巻きを着ている。
無垢な顔で、真っ直ぐこちらを見つめながら「28歳」だと告げる大人のひかり。
その破壊力たるや。
もし俺がリサリアを呼ばなければ、彼女はあのまま一夜を共にするつもりだったのか?
「………寝れない」
一度思い出したら頭から離れず、中々眠りにつけなかった。




