どこが好き?
会議が終わり、人々が帰って行く。
「ひかり嬢、またね〜」
「では、またなにかありましたら、連絡します」
「美味しいお茶をご用意して、お待ちしてますね」
「ありがとうございました」
ひかりとリサリアは、それぞれに丁寧にお礼をして見送った。
ガルドはアーノルド王子の馬車の前で話をしているので、先に建物の中に戻った。
はふう、と一息吐く。
「ひかりちゃん、お疲れ様」
「リサリアもお疲れ様」
会議室に入って多くの本を手に取る。
不思議なことに、最初からこの世界の文字は読めるし書ける。あとは知識を増やすだけだ。
「何で読めて書けるのかな」
「不思議ね。他の国の文字も読めるのかしら?」
ペラペラと本の中身を見ながら文字を追う。
日本語を書くと、勝手にこの世界の文字になっていた。
生きるには助かるが、この世界で日本語が記録に残せない。
自分の世界の物を拒否されているようで、少し怖い。
本を積み重ねて部屋に持って行こうとすると、ガルドが戻ってきた。
ヒョイと本を代わりに持ってくれた。
「ひかり、持って行くよ」
「あ、ありがとう」
「私は執務室に戻るわね。ひかりちゃん、夕食の時ね」
「うん。またあとでね」
リサリアが持ってくれていた荷物を受け取ると、ガルドとひかりは部屋まで教材を運びに行く。
見回りの団員や仕事で移動する団員たちとすれ違った。
ひかりとガルドは穏やかな道のりを、ゆっくり歩く。
「俺は、ひかりが好きなんだ」
「うん!?そ、そう。ありがとう…」
突然、なにを言い出すのか。
ひかりはガルドから視線を逸らして歩く。
「辺境伯の人間は、妻をとことん愛す性分なんだ。俺は一族の中では違うと思ってたんだが、ひかりが好きすぎて、愛したくて、自分でも制御できない行動をとってしまう」
ガッ。ドサ。
何もないところで、ひかりはつまづいて持っていた荷物をぶちまけた。
四つん這いの体勢のまま動けない。
「大丈夫か!?ひかり」
「うん…大丈夫…」
顔がすごく熱いのがわかる。上を向けない。
今日のガルドは、本当になんなんだ。
ヨロリとぶちまけたのを拾い集めて、俯いて早足で歩き出す。
もうガルドが見れない。
ガルドは本を持っていて、ひかりは怪我をしていないか確認できず、オロオロしていた。
「怪我は?痛いところは無いか?」
「大丈夫…」
「そ、そうか」
先に進むひかりに、ガルドはすぐに追いついて横に並び、話を続けた。
「俺は、ひかりの全部が好きなんだが…」
「その話、続けるの!?」
「どんなところが好きか知りたいって、リサリアから聞いた」
「あーっ!言ったね!?でも、もういいかな!?」
「そんなこと言わずに。全部ちゃんと話すから」
真剣な声で何言ってんの!?
どうすればいいの!?誰か止めて!
ひかりは、団員たちが普通に通りがかる道で、愛を謳い続けるガルドに困り果てた。
話を止める様子が全くない。
「ひかりは、何でも一人で頑張ろうとする健気なところが可愛い。そんなひかりに頼ってもらえるとすごく嬉しい。それから、いつも穏やかな笑顔がとても魅力的だ。毎日とても癒される。照れ屋で、顔が赤くなった時なんか抱きしめたくなる。それとーーー」
「〜〜〜〜っ」
ひかりは荷物を持っていて、赤くなった顔が隠せない。俯いて唇を噛み、涙目で必死に叫ぶのを我慢している。
たまに通りがかる団員の気配には、荷物を捨てて走って逃げようかと思った。
なんとか俯いて顔を隠した。
なんの羞恥プレイなの。死ぬ。恥ずかしすぎて死ぬ。早く終わってくれ。
そんな願いむなしく、ガルドのひかりに対しての賛辞と、いかに大好きかの説明は部屋に着くまで続いた。
ひかりは、ガルドの気持ちを疑うなんて二度としないと心に誓った。




