息子がごめんね
エランを仕事に戻して、ガルドたちはひかりを連れて会議室に戻ってきた。
「あ、ひかり嬢」
「!!」
アーノルド王子がそこにいて、ひかりは身体を固くする。
逃げるように、離れていたガルドの側に近寄る。
ガルドは、そんなひかりの姿に感激していた。
ひかりが頼ってくれている。
怒ってない。良かった。
ひかり以外の人間全員が、あまりにもわかりやすいガルドに呆れていた。喜びで、尻尾をぶんぶん振っている幻覚が見える。
「ひかり嬢、ガル兄とずっと仲良くしててね?本当にお願いだから、二人で末長く幸せでいてね」
「え?」
「辺境伯の未来は、君にかかっているから…もうあの姿見たくない。俺は絶対、ああはならない!」
「え!?」
「殿下、落ち着いて」
机に肘を付いて頭を抱えているアーノルド王子は、側近のジェイドとフェリクスに介抱されている。
あんなに自信満々だった王子の姿が消えていた。
この会議でなにがあったのか。
ワケがわからずガルドを見ると、いつもと同じ優しい笑顔で返された。
深く追求するのは止めよう。
リサリアに助けを求めて見ると、彼女は王子を無視して一人の上品そうな女性を紹介をしてくる。
「ひかりちゃん。こちらは王妃様の専属侍女でレイゼン・コウスト伯爵夫人よ」
「初めまして。桜ひかりです」
ひかりは緊張しつつ、ぺこりとお辞儀をした。
「初めまして。王妃殿下の侍女を務めております。レイゼン・コウストと申します。
本日は、王妃殿下よりひかり様へお茶会にお誘いのお手紙をお届けに上がりました」
優雅にカーテシーをした後、スッと手紙をひかりに差し出す。
その姿があまりにも優美な為、ひかりは感動してしまった。胸に手を当てて、うっとりレーゼンを見つめて感嘆の言葉がつい漏れた。
「素敵…」
「まあ、ありがとうございます」
ひかりに反応は、王族の侍女に憧れる貴族の少女たちのようだった。レーゼンは微笑ましく思い、ふわりと笑う。
優雅な大人の女性だ!なんて素敵。
頬を赤らめながら、ひかりはレーゼンから手紙を受け取り、王妃様からの手紙を見る。
「あの、今読んでも?」
「ええ、もちろん。どうぞお読みください」
そこにはお茶会の日にちとお詫びが書かれていた。
辺境伯令息の春に、息子が手を出そうとして申し訳ない、とあった。
「え…何で知って…」
「どうした?」
ひかりが困惑していたので、ガルドが読んでもいいか許可を取って読ませてもらう。
昨日のことなのに、もう謝罪の手紙が届いた。
「王妃殿下は、王子殿下のことでひかり嬢が怖がっておいでではと、心を痛めております」
「あ、ひかり嬢、今までごめんね。もう結婚申し込まないから安心して。ガル兄と幸せになってね」
レイゼンの話で母の怒りを察したアーノルドは、すぐにひかりに謝罪した。ニコニコと、自分は無害ですアピールをしてくる。
「は、はあ」
なんだかわからないけど、もうこの王子は怖いことしないっぽい。ひかりは、そろそろと警戒心を解いていく。
簡単に警戒を解くひかりに、アーノルドは笑う。
「ありがとう。ひかり嬢は優しいね」
「はあ」
この俺に、全然関心のない返事。
妻に出来ないの、やっぱりちょっと惜しいな。
地位や名誉に興味もなく、人の本質だけを見ている女性。本当に、ガル兄は運が良い。
アーノルドは身内にしか見せない顔から、王子の顔になった。周りの人間に笑顔を向ける。
「さて、会議を始めようか」




