イヤじゃなかった?
会議は一旦休憩に入り、図書塔で本を選んでたひかりをガルドは迎えに来た。
ひかりは本棚の前で、静かに本の中身を確認している。エランは側を離れているようだ。
「あの、ひ、ひかり…」
「ガルド、会議終わったんだ?」
昼間の失態を、ひかりは怒ってないだろうか。
ガルドはビクビクしていたが、ひかりが笑顔で話してくれて安堵する。
「いや、今は休憩だよ。教材を預かってるから、執務室に来てくれるか?それから、王妃様の侍女がひかりに用があると呼んでいるんだ」
「え!?な、何?こわ!なんの用事?」
「王妃様から手紙を預かっているらしい」
「手紙?なんで私に…」
王族恐怖症になりつつあるひかりは、本を抱き抱えて震えている。
「大丈夫だ。王妃様はアルとは違って、思いやりも良識もあるまともな人だ」
「そ、そう」
ガルドは、王子殿下に向かって相当な不敬発言を言っている。でも、おかげで少し落ち着いた。
「あの…ひかり。さっきはすまなかった。つい嬉しすぎて、抱き締めてしまった…」
「え?」
大型犬が落ち込むように、しょんぼりと謝るガルド。
ひかりは一瞬、何を言われているのかわからなかった。
………さっき?だってあれは…。
………!!!
ぶわわわわと顔が赤くなっていく。
昨日は乗馬中、ガルドにずっと抱き締められていた。
アーノルド王子に捕まってた時も、抱きあげて守ってくれた。
ガルドが私を守る時は、抱き締めてくれる。
そう覚えて、今日のことも全然気にしていなかった。
普通、男女で抱き合わない。
そんな当たり前のことが、すっぽ抜けていた。
「あああ、あの。えっと」
「嫌がっていたのに…すまない」
「え!?嫌がってはいな…ななな。えーとえーと」
嫌じゃなかったって返事もおかしいな!?
ひかりはぐるぐると頭の中で、最適解を必死で探す。
「あっ!人前でされるのは恥ずかし…い…」
言ってる途中で、ガルドの驚いた顔が見えた。
これは、答え違った…?
「それは、二人きりなら良いってことか…?」
「待って待って。これ正解なに?もうこの話終わろ?」
ひかりは真っ赤な顔を本で隠して、ガルドの視線から逃げた。
そんな二人を、本棚の陰から覗いているエランとリサリア。
「副団長…本当にあの二人、付き合ってないの?」
「そうよ。ウソみたいでしょ?」
今朝、エランはひかりの護衛に付く前に、リサリアからメモ書きを渡された。
「いい?ガルドがひかりちゃんに、おかしな行動をしだしたら、コレを叩きつけるのよ?」
なんだそれ。どういう命令なんだ?
メモの内容も意味がわからなかった。
え?副団長の嫌がらせ?
真剣な表情だけど、マジな命令?どっち?
副団長の日頃の行いのせいで、判断がつかない。
とりあえず受け取っておいたけど、本当に使うとは思わなかった。
あの団長が、私の攻撃を避けれないのも驚いたな。
完全におかしくなってた。
ーー高位貴族は、能力が高い代わりに変わり者が多い。
平民の間では昔から、まことしやかに広がっている噂。
真面目で厳しい団長。上品で冷静な副団長。
見た目も良くて、地位も権力もある。
非の打ち所がない凄い人たちへの嫉妬や僻みなんだろう。
……そんな風に考えてた時期もあったねえ。
エランは、遠い目をして思い出す。
ひかりちゃんがこの世界に現れてから、まず副団長の様子がおかしくなった。団長は、暴走を止める側だと思ったのになあ。
今は団長が、絶賛大暴走中だ。
高位貴族は、可愛い人間が好きなのかな。
それとも、ひかりちゃんが特別なのかな。
「面白いから、どっちでもいいか」
「なにが?」
「いえいえ、こっちの話。ひかりちゃん困ってるから、もう行ってあげません?」
「そうね。そろそろ助けてあげましょ」
エランとリサリアは、なんてことない風を装いながら二人の前に出て行った。




