色濃く受け継いだもの
「ひかりちゃ〜ん!大丈夫だった?」
アーノルド王子が臨時見張り台の階段を降りて行った後、エランが階段を駆け登ってきた。
焦った様子で、エランはひかりを探して見まわす。
ひかりは、ガルドに思いっきり抱きしめられていた。
「あー…。すみません、お邪魔しました」
「違う違う!邪魔じゃないから!行かないで!」
くるりと回れ右して階段を降りて行こうとするエランを、ひかりは真っ赤な顔で引き留めた。
「ガルドはお仕事でしょ!?殿下行っちゃったよ!リサリアもきっと待ってるよ!?」
エランがいても気にせず抱きしめるガルドに、ひかりは焦りながらジタジタと離れようとする。
な、なんだ?なんかいつものガルドと違う!?
いつものそっと優しく見守るガルドの見る影もなく、スリスリとひかりの頭に頬擦りしていた。
ひかりがアーノルド王子の求婚を断った上に「ガルドの方がいい!」宣言で、ガルドのタガが簡単に外れていた。理性ペラッペラである。
「団長、すみません!これ副団長からです!」
エランが叫ぶと、思いっきり団長の顔に白い塊を叩き付けた。
「ヒィッ!?」
ガッとすごい音がして、ひかりは悲鳴をあげて硬直した。
ガルドの頬に何かついている。よく見ると白い紙で何か書いてあった。
エランが叫ぶ。
「ひかりちゃん!読んで!」
「え?ええと…無理矢理はダメ…しつこい男は嫌い…?」
カッとガルドの目が開いて、ひかりの身体をそっと離す。優しく頭を撫でた後、階段の方へ歩き出した。
「仕事に行ってくる」
「う、うん」
頬に紙が付きっぱなしだ。ひかりはポカーンとしたままガルドの姿を見送った。
「…あのままでいいのかな?」
「そっとしとこう。多分、副団長がトドメ刺すから大丈夫」
「それ、大丈夫じゃなくない…?」
エランの不穏な言葉に、ひかりは困惑しかなかった。
ーーー
ガルドは軽くふらつきながら、会議室へ向かった。
「なあ、あれ…」
「シッ、関わらない方がいい」
団長の姿を見て、声をかけようとする団員を他の団員たちが止める。
「団長は不可解な行動を起こす日があるが、そっとしておくように」
副団長からの訳の分からない通達は、多分これのことだろう。
頬に張り付いたメモ紙に書かれた内容からして、ひかりちゃん関係だ。
触らぬ神に祟りなし。
団員たちは、そっと目を逸らした。
会議室の前では、リサリアが待っていた。
ガルドの顔に貼り付いたメモ紙を見た瞬間、リサリアは思い切り手刀をガルドの頭に下ろしていた。
ヒラリと白いメモ紙が、顔から剥がれて落ちた。
「理性を無くすのが早過ぎるわ!獣か!」
「うぐうう…まさか、俺もここまでとは」
ガルドは、頭を抱えてしゃがみ込む。
足元に落ちた紙の文字が目に入り、心が抉れて呻いた。
リサリアはこの先、万が一の為に、エランにガルドの心を抉る文を書いた紙を渡しておいた。
これをひかりちゃんに読ませれば、理性を取り戻せるだろうと踏んでいた。
まさか、数時間も経たずに使われるとは思わなかったが。
「何やってんの。二人とも」
開いた扉の隙間から、呆れた顔をしたアーノルド王子がこちらを見ていた。




