ひかり激おこ
後から、昨日見た街までアーノルド王子を迎えに来ていた金髪と銀髪の男性二人がやって来た。
きっと王子の側近なのだろう。
ニッコリ笑うアーノルド王子に、ひかりは悪寒が止まらない。
「な、なんで?」
「可愛い後ろ姿が見えて」
食堂の窓から、遠くにひかりの走る姿が見えて、アーノルド王子はすぐに追いかけていた。
団員たちは、突然走り出すアーノルド王子を止められなかった。
エランも慌てて後を追うが、団員は来るなと言われてしまう。
追えない代わりに急いで団長の元へ走り出した。
「ねえ、さっき食堂にいたよね?なんでこんな所に?」
「あ…う…」
ニコニコ笑うアーノルド王子に、ひかりは何も言葉が出ない。
ここここ怖い!
体の震えが止まらない。心臓がバクバクいっている。
返事ができないひかりをアーノルドは気にせず、話を続ける。
「こないだの返事を聞きたかったんだ。ガルドと結婚するの?」
「い………いい…え。しない…です」
絶対に答えろという圧を感じて、なんとかひかりは答えた。
「ふーん。しないんだ。ガルドは嘘をついたのかな?」
「ち、違います…まだ、ちゃんと返事…してないだけ…です」
「ふーん?まだ ねえ」
ジッと見つめ合うアーノルド王子とひかりは、標的を定めた猛獣と恐怖で動けなくなったウサギだった。
王子の後ろにいた側近の二人は、気の毒そうにひかりを見ていた。
「なら、もう一度言うね。私の王太子妃にならない?」
「…な、ならない…です」
「ガルドの方がいい?騎士団はいずれ辞めるよ?辺境伯に行くことになる。王都には中々来れないだろうね」
「…?」
だからなんだろう?
ひかりは王子が言ってる意味がわからなかった。
震えながら戸惑っているひかりを見て、アーノルド王子はクスリと笑う。
「怖くない?隣国との小競り合いも、魔獣の殲滅も辺境伯の仕事だ。王城なら、安全に暮らせるよ?」
ひかりは目を見開いた。
……ガルドが守るからこその安全を、この王子は何を言ってるんだ…?
ピキピキと怒りが湧いてくる。
体の震えが止まって、回らなかった頭が冴えてくる。
ひかりは、元々お淑やかでも何でもない。弱くもない。突然のアクシデントに弱いだけ。
昔からよく言われていることがある。
普段穏やかな人間は、怒らせると加減を知らないから恐ろしいと。
ひかりの目が、スウと冷徹になった。
王子は、ひかりの様子が変わったのに気付いた。
「そこのお二人は、殿下の側近でしょうか?」
「は、はい。側近のジェイド・ハーゼンと申します」
「私はフェルクス・クッカと申します」
金髪と銀髪が順番に答える。
突然ひかりに話しかけられた二人は、驚きながら返事をする。
さっきガタガタ震えていたとは思えない落ち着きだ。
「今すぐに陛下にお伝えください。
断っているのに、何度も結婚を申し込む王太子殿下を止めないのならば、知識を王家には生涯渡すことは無いと」
「なっ!?」
側近の二人は、驚愕して固まってしまう。
アーノルド王子は、探るようにジッとひかりを見る。
「いいのかい?そんなことを言って」
「それは、こちらの台詞です。……良いのですか?渡されるかどうかわからない知識、王家にだけは絶対渡されないと決まってしまって?」
ひかりは目を逸らさず、アーノルド王子を見つめ返した。恐怖なんて微塵もない。むしろ怒りが見えた。
「国を守っている者へ感謝もない王家に伝えることは何もありません。さあ、陛下にお伝えください」
あの謁見の時のようなひかりが、そこにいた。




