砂糖よりも甘い
ご飯を食べた後、ひかりはすぐに席を立って逃げた。
リサリアはひかりを追わず、紅茶を飲んでいた。
「ガルド、気付いてるんでしょ。口元緩んでるわよ」
「!……仕方ないだろ」
ガルドはパッと口元を手で隠して、あさってのほうを見る。
リサリアは肩をすくめた。
「まあね。可愛いものね」
「誤魔化せてると思ってるんだろうな」
ひかりは、気付いてないんだろう。
ひたすら目を合わさないなんて、俺を意識してると言ってるようなものなのに。
「ひかりちゃんに、どこが好きか教えてあげてね」
「え?全部だが」
「…吹っ切れた人間てすごいわね。だけど、ひかりちゃんに詳しく話すのは、必要なことなのよ」
「どこが好きか言うことが?細かく言ったら引かれないか?」
リサリアは呆れながら、飲んでいた紅茶のカップをソーサーに静かに戻した。
真顔で惚気てきたわね。一昨日まで、ひかりちゃんに好意を見せるのを怖気付いてた男とは思えないわ。
「ひかりちゃんは、自分に自信がないのよ。だから、自分の良さが全く見えてない。人に甘えられない。で、ガルドに自信付けさせてもらおうと思ったんだけど、あなたも辺境伯一族の人間だったわね。心配無用みたい」
辺境伯一族の愛妻家ぶりは有名だ。
戦を担う辺境伯、いつ永遠の別れが訪れるかわからない一族だからか、とにかく夫の愛が重く、妻を溺愛すると言われている。
そんな愛され方をしたら、どんな女性も自信を持つだろう。
「ガルドもエッセン一族の片鱗を持ってるのねえ。結婚しても、ちゃんとひかりちゃんに会わせてよ?」
「え!?嘘だろう?俺は一族の奴らとは違う。ひかりに嫌われるようなことはしないぞ。ひかりは、リサリアに会いたがるに決まってる」
「それは良かったわ」
ひかりに嫌われたら、生きていけない。
そういえば昔、妙な家訓があるのに気付いて母上に聞いたことがあった。
「親族の中に妻をあまりに愛し過ぎて、誰にも見せたくないと屋敷に囲おうとしてしまった夫がいたのよ」
元騎士だった妻が激怒して、屋敷内で戦争が起こったらしい。
「いろんな武器が使われちゃってねえ。妻の自由を奪ったら許さないって、辺境伯夫人が直々に家訓として一族に通達したんだから」
そう笑顔で話す母上の目が、笑ってなかった。
今思えば、最近の話だったのか?あれ。
そんな愛し方を俺もするんだろうか?
あの温厚なひかりが怒ったら、どうなるか全く想像が付かない。何が起こるか考えるだけでも恐ろしい。
「もし、俺がひかりを愛し過ぎてたら止めてくれ」
「わかった。息の根を止めるわね」
「容赦なさ過ぎるだろ」
ガルドが真剣な表情で、頭のネジが飛んでるおかしなお願いをしてくる。
リサリアは、一族の愛の重さを実感した。
ここまでスゴいのねえ。ひかりちゃんのガルドの気持ちが信じられないなんて悩み、きっとすぐに無くなるわね。
大切にされて、幸せそうに笑うひかりを想像する。
リサリアは微笑みながら紅茶を再び飲み始めた。




