安心の場所
ひかりとガルドはカフェを出て、商会に預けていた馬を迎えに行った。
暗くなる前に王都を出ないと、砦への帰り道が危なくなってしまう。
「さ、捕まって」
「うん」
馬上からガルドに引き上げてもらい、横座りするひかり。行きと違ってこういう乗り方だと覚えたので、あっさりとガルドの腰に腕を回す。ガルドもひかりの腰に手を回し支える。
「よし。行くぞ」
馬をゆっくり走らせ始めた。
ひかりはガルドの胸に顔を寄せると、じんわりと温もりを感じる。
ガルドは守ってくれた。
好きって言ってくれた。
自分の気持ちはよくわからない。
恋ってなにかわからない。
でも、ここは一番安全で安心できる場所。
そっと目を閉じる。
ガルドの腕の中はゆりかごの中にいるようだった。
「………何の試練なんだ」
すぴー
ひかりの腕の力が抜けてきて、ガルドが慌てた時にはすでに思いっきり寝ていた。なんなら行きより爆睡していた。
ガルドは馬を走らせるのを止めて、ひかりを横抱きにした。頭を軽く支え、包み込む様に腕で抱く。
片腕で手綱を握り直す。
ひかりは、乗馬で相乗りすると寝てしまうのか、俺と乗ると眠くなるのか、どっちなんだ。
俺の気持ちを聞いた上でこの状態は、どういうことなんだ?
全く起きる気配がなく、スヤスヤ寝てるひかり。
口付けの一つもしてやりたくなる。
初恋もまだと言われた時は、自分が何もかもひかりの初めてになるのかとつい喜んでしまった。が。
「忍耐力が、かなりいるなあ…」
ひかりの、心を開いた人間への態度がこれなのだとしら、理性をどれだけ保ってられるか。
そっとひかりの頭に頬を寄せた後、馬に合図をした。砦への道のりをゆっくり走らせた。
馬を走らせ続けて、もうすぐ砦に着く。
「ひかり、もうすぐ着くぞ」
「…ん」
もぞりとガルドの胸にひかりは擦り寄り、顔が隠れる。
「…………」
「……」
動きがないひかりの頭に、ガルドはキスを一つした。
ひかりの身体がピキリと固まるのを感じる。
「そんなに俺の胸で寝るのがいいなら、部屋に連れていくか。一緒に寝よう」
「おはようございます!!起きました!すみません本当にすみません!!」
ひかりは真っ赤になってガバリと離れた。
「そんなに寝心地いいのか?」
「うああああ」
両手で顔を押さえて、ひかりは悶えている。
頭にキスをされるほんの少し前に意識が浮上した。
ヒィ!嘘でしょ、なんで寝てんの。どうしよう!
寝てるフリをしながら、内心汗ダラダラだったのがバレていた。
「ほら、ちゃんと捕まって」
「はい…」
しおしおと大人しくガルドの腰に手を回して、体勢を整える。
「なんで寝ちゃうんだろうなあ」
「いつもなら寝ないのか?」
「今日初めて乗馬したからわかんない。なんか気付くと寝てた…」
「ふふっ。そうか」
「ううう」
砦の裏門に着くと二人は馬から降りて、歩いていく。
「団長、ひかりちゃん。おかえりなさい」
見周りをしていた団員が声を掛けてきた。
なんだかいろんなことがあったな。
そんなことを思いながら、ひかりは団員に返事をしていた。




