ひかりの気持ち
「好き?」
「ああ、ひかり。俺はひかりが好きだ。いずれ俺は辺境伯領へ戻る。その時はひかりと一緒に戻りたい」
ガルドの真剣な表情を見て、ひかりは目を瞬いた。
ウロ…と目が泳ぐ。困ってるわけではなく、その言葉を理解しようとしている様だった。
ひかりは、静かにガルドを再び見つめた。
ーーーそこには熱がない。
ガルドの心が軋む。
ダメなのか…?
「あのね、ガルドの気持ちは嬉しい。でもね…その………」
ひかりは、再び目が泳ぐ。言っていいのか迷う。
「大丈夫だ。はっきり言ってくれ」
「引かないで欲しいんだけど……」
ガルドの言葉に、ひかりは眉を下げた。
「あのね、私、告白されたことなくて。誰かを…その、好きになったこともなくて…」
「…ん?」
なんだか予想と違う言葉が出てきて、ガルドは戸惑う。
ひかりは、ガルドに困った様に笑いかけた。
「恋愛的な好きが……わかんないんだよね」
「…え?」
「変だよね。ごめんね」
ひかりは、少し気まず気に俯いた。
「ガルドの好きが、私の好きと違うと思うの…どうしたら結婚したいほどの好きに変わるのか、わからない…」
ひかりは子供の頃から言われていた。
「デカくて男みたい」
「あの子可愛いよね。守ってあげたい」
「助けてあげて」
「ひかりちゃん、かっこいいね」
気にならないと思っていても、ひかりの心には溜まっていって染み込んでいった言葉。
ーーそうか。私は、恋愛の対象にはならないのか。
そうして、無意識に心を閉じてしまっていた。
トキメキは、見て楽しむもの。
自分の身に降りかかることはないのだから。
そんな生き方をしてきたひかりに、ガルドの結婚前提にした強い気持ちになんて応える術など全くなかった。さっぱりわからなかった。
応えられない。嫌われちゃうのかな…。
自分が欠陥人間の様に思えて、心が苦しくなっていった。
「……それは、ただひかりが、初恋もまだなだけでは?」
「え?」
ガルドは、優しくひかりの手を取った。
「ひかり、恋愛じゃなくても俺のことは好き?」
「う、うん」
ガルドの表情は穏やかで、ひかりは戸惑いながら頷いた。
「じゃあ、俺のことを男として意識させてみせる。恋なんて、気づけば落ちてるものだよ。考えてできるものじゃない」
そう言ってひかりの手を引き寄せ、チュと口付けた。
「うゃあ!?」
ひかりはびっくりして手を引く。簡単にガルドの手から逃げられた。
ガルドは、ひかりに向かってニッコリ笑う。
「俺がひかりの初恋になる」
「わああああ!?」
ひかりは気付いてない。
俺と自分の好きが同じに変えられないから、応えられないと悲しんでいた。
悲しんでいる時点で、それはもう友情ではない。
気付くまで待とう。
離れたくないと思うほどに、落ちてきて。




