ひかりが好きだ
「このケーキ美味しい〜!」
「良かった」
ひかりは、絶品フルーツタルトを感動しながら食べていた。
ガルドは、すっかり元気になっているひかりに安堵した。
「私もカフェをやるなら、何作るかメニュー考えないとだね」
「料理が出来るのか?」
普段は料理人が作るので、貴族の子女は料理ができない。ひかりが当然のように作ると言って驚いた。
ガルドも野営用の食事しか作れない。
「もちろん。一人暮らし長かったからね。大体作れるよ。でもこの世界の食材がわからないから、勉強しないとだなあ」
「食堂の料理人に教えてもらうのもいいかもな。ひかり専用メニューを作るのを楽しんでるようだし、喜んで教えてくれるんじゃないか?」
「そうかな?」
「ああ、帰ったら料理長に聞いてみるか」
「いいの?ありがとう」
騎士団の食堂でするような、穏やかな会話。
いつもの二人ーーーーのように振る舞う二人。
ひかりは今後の対策を考えないといけないけれど、アーノルド王子の話題を出したくない。
知識が欲しいんだろうけど、あの人にホイホイ渡しちゃいけない気がする。
それにあの笑顔を思い出すだけで悪寒がするし、ものすごく、ものすごーく面倒くさい。
ガルドは、あの顔面だけは特別良いアーノルド王子に言い寄られたのに、震えて怯えていたひかりを思い出すと言い出せない。
迂闊にプロポーズして怯えられたら、立ち直れそうにない。
貴族ではないひかりにとって、王太子妃になるか辺境伯夫人になるかなんて、怖さは大して変わらないのでは?
投げやりになってるひかりと日和まくってるガルド。話が全く進まなかった。
ケーキを食べ終えて、話が途切れる。
話を…するしかない。
ガルドは、真剣な表情でひかりを見つめる。
「ひかり、大事な話がある」
「う…うん」
やっぱり話をするしかないよね。
ひかりは、決意のこもった表情で頷く。
「ーーーー俺は、ひかりが好きだ。どうか結婚してほしい」
「……………ん?んんん?」
ガルドの話が理解出来ない。
アーノルド王子対策の話は?え?結婚?
「え?さっき、ガルドと殿下が話してた内容についてじゃないの?なんか守るとか奪うとか、よくわかんないけど言ってたよね?」
「え、何の話かわかってなかったのか?」
「うん。全然」
首を横に振るひかりに、ガルドは戸惑った。
まさか何も理解してないとは。
それじゃひかりは、俺達が何を言っているのか意味がわからなくて、怯えてたのか。
「そうか…。殿下は、ひかりを王太子妃にしようとしてたのはわかるな?」
「うん。ちゃんと断ったよ」
「ああ、だが、殿下はまだ諦めていない。ひかりが結婚をしてないからだ。
王族が望んだら、貴族達は手が出せない。
異世界人に自由と保護が不文律だが、ひかり自身に望んでもらえば話は別だ。だから何度でも言いに来るだろう。
殿下が奪いたいのは、ひかり自身だ」
「嘘でしょ…」
ひかりは、あの恐怖をまた味わうのかと想像して青ざめた。
「ひかりが嫌がっていることはさせない。俺が守る。一族全てで守る。辺境伯後見とはそういう意味だ」
それを聞いてひかりは、ホッとする。
ガルドがそう言うなら、ちゃんと守ってくれるんだろう。
「ありがとう。ガルド」
「……それと、次期辺境伯の春というのは、俺の大切な人、俺の妻になって欲しい女性。次の辺境伯夫人という意味だ」
「う…ん?」
ひかりは、先程の出来事について記憶をたぐる。
ガルドは怒りながら、アーノルド王子にハッキリ言っていた。
「ひかりは次期辺境伯の春だ!」
あんなガルドは初めて見た。
今も、ひかりを見つめるその瞳は、いつものガルドとは何かが違う気がした。
「ええと、それは…つまり?」
ガルドの心臓は早鐘を打つ。
ーーー意を決して告げた。
「俺はひかりのことが、結婚したいくらい好きだということだ」




