番外編 一族に聞いてみた
辺境伯の一族は当主を筆頭に「見た目詐欺」と言われている。
外交や貿易も担っている為か、穏やかで社交的に見える。一族の結束はとても強く、家族思いで愛妻家だ。困った時は必ず助ける。そんな愛情深い一族。
だが、有事になると印象が一変する。
戦闘には率先して指揮を取る。殲滅をするほどの強さ、残忍さを持つ。一族で獲物を絶対に逃さない。
敵に回した時は、容赦がない恐ろしい一族だった。
特に家族を故意に危険に晒した者へは、家族だろうと許さない。息の根を留めるまで、噛み続ける。
辺境伯家夫妻曰く。
「そんなことないよ〜。うちはみんな穏やかでいい子だよ。ね?」
「そうねえ。そんなこと最近ないもの。ね?」
辺境伯家の親族曰く。
「あはは!ただの噂だよ」
「あ、でも家族が仲が良いのは本当だよ?」
「家族を大事にするのは当たり前だよね」
辺境伯家の寄子曰く。
「妻を愛するのは夫の権利だ」
「子供たちは何よりも大事だわ?」
どこで聞いても穏やかで、にこやかに笑う一族。
「だって、本当に一族を大切にしてるだけだよ?」
「ね?」
当主は鬼神と呼ばれている。
親族には、狙った情報は必ず手に入れる魔法使いがいると言われている。
とても美しく声で惑わすセイレーンのような女性剣士もいるとかいないとか。
唯一、はっきりわかっているのは若様と言われている次期辺境伯令息だ。一族の中で、表情を取り繕う事なく鋭い表情を見せる。
闇の世界に手を染めたら、隠れていても引き摺り出される。
鬼神の息子たる力と威圧感。
「あはは、そうだね。若様だけは噂通りかも」
「カッコいいよね。若様」
「次期辺境伯に相応しいよね」
頷きながら笑う従兄弟達。
その目は本当に、若様に尊敬と親しみを持っているのがわかる。
「どれが本当だろうね?あなたは、どれが本当だと思う?」
「全部ウソ?全部本当?どちらかがウソ?」
「ボクはね、こっちがウソだと思う」
「え〜?こっちは本当だよ」
無邪気にクスクスと笑いながら、どんな答えを出すか興味津々な子供たち。
「ねえ、どうしてそんなに知りたいの?」
赤毛の男は、にこやかに楽しそうにこちらを見つめていた。




