繋いだ手
「助けて!ガルドー!!」
「ひかり!?」
ガルドはバッとベンチの方を向くと、男に手を掴まれてるひかりが見えた。
持ってる飲み物を投げ捨て、全力で走って男の手を打ち払い、ひかりを抱き上げた。
「大丈夫か!?ひかり、よく呼んだ」
強く抱きしめると、ひかりは潤んだ目でこちらを見た後、ぎゅうとくっついてきた。
ひかりがこんなに怖がるなんて、何したんだこの野郎!
ベンチの男を視線で殺す勢いで見たら、驚いた顔の明らかにお忍び姿のアーノルド王子がいた。
「は?なんでこんな所にいるんだ!おい、護衛はどうした!?」
ガルドは慌てて周りを見渡している。
王子相手に使う言葉遣いではないガルドにひかりは驚いたが、アーノルド王子はケロリとしていた。
「撒いて出てきた。いなくても俺、強いし」
「おっまえ!」
血管ブチ切れそうなガルドに、アーノルド王子は目を細めてガルドを見る。
「ねえ。それより、ひかり嬢を離して?」
ガルドはアーノルド王子を見据えた。
その瞳には燃える様な怒りと決意が現れていた。
「ひかりは、次期辺境伯の春だ!無理に奪う気なら一族全ての力でひかりを守る!そのつもりで来るがいい!」
ガルドの怒声にアーノルドは驚いた。
浮いた話の全く無かったガルドが本気でひかりを望んでいる。
この男は、知識など興味はないだろう。
ひかり自身が欲しいのだ。
「……ひかり嬢もそうなのかな?」
抱き上げられているひかりはアーノルド王子と目が合うと、猫が驚く様にビクッとし固まった。
ひかりは頭フル回転で考える。
辺境伯の春?春って何だっけ?私もそうなのかってなにが?守るって、なんか政治的な話してる?なに奪われるの私!?え?これどう答えるのが正解?
ぐるぐる考えてもわからない。
この人達なんの話してんの!?
ひかりは、キャパオーバーを起こしていた。
「ひかり嬢?」
「…ッ!」
アーノルド王子が優しく声をかけると、ひかりは先程の全く話が通じない恐怖を思い出して、思考が全て吹っ飛んだ。
返事をせずに、ガルドの胸元に慌ててしがみついてギュッと目を瞑る。
無理!わからん!知らん!怖い!
ぶるぶる震えながら、完全に殻に閉じこもってしまった。
ガルドはひかりが頼ってきたので冷静さを取り戻し、優しくひかりの背中を撫でて王子を睨む。
「アル…怖がらせるな。ひかりは全く王太子妃には向かないぞ。諦めろ」
「そうかなあ」
「そうだよ!お前本当にそれ悪い癖だぞ!」
まだめげないアーノルドに、ガルドは簡単に切れた。
アーノルドを叱ってる時に、バタバタと慌てたように二人の男が走ってきた。
「いたー!アル!一人で出て行くなって言ってんだろ!」
「あっ、エッセン団長!?足留めしてくださってましたか。ありがとうございます!」
金髪の男は、息を切らしながらガルドにお辞儀をする。
銀髪の男が王子の腕をガッシリ掴んだ。
「帰るぞ!母君が怒り心頭だぞ。お茶の時間すっぽかすなよ!」
「あっヤバ」
「では、失礼いたします」
二人は手際良く王子を馬車に回収していき、王城へ戻って行った。
「ひかり、もう大丈夫だぞ。殿下は帰った」
「……あの人怖い…」
「一人にしてすまなかった。もう離れないから、一度どこかで休もう」
珍しくひかりが縋ったままだ。
落ち着かせるように抱きしめてから、ひかりを見た。
ひかりはおずおずと離れて辺りを見回して、王子がいないとわかるとホッとして、降りる素振りを見せたので降ろした。
ひかりはガルドと目が合うと、少し気まず気な表情をしながら離れていく。
「ありがとう。もう大丈夫…」
「離れないでいい。店に入るまでこうしていよう」
そう言ってひかりと手を繋ぎ、歩き出す。
ひかりは、不思議な気持ちで歩いた。
ガルドの側にいると安心する。
握られた手に力を入れていいのか迷う。
力を入れないと、ガルドが力を抜けば離れてしまう。
ひかりは、離れたくなかった。




