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異世界では小さいねと可愛がられてます  作者: とりとり


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58/105

繋いだ手 


「助けて!ガルドー!!」

「ひかり!?」


ガルドはバッとベンチの方を向くと、男に手を掴まれてるひかりが見えた。


持ってる飲み物を投げ捨て、全力で走って男の手を打ち払い、ひかりを抱き上げた。


「大丈夫か!?ひかり、よく呼んだ」


強く抱きしめると、ひかりは潤んだ目でこちらを見た後、ぎゅうとくっついてきた。


ひかりがこんなに怖がるなんて、何したんだこの野郎!


ベンチの男を視線で殺す勢いで見たら、驚いた顔の明らかにお忍び姿のアーノルド王子がいた。


「は?なんでこんな所にいるんだ!おい、護衛はどうした!?」


ガルドは慌てて周りを見渡している。

王子相手に使う言葉遣いではないガルドにひかりは驚いたが、アーノルド王子はケロリとしていた。


「撒いて出てきた。いなくても俺、強いし」

「おっまえ!」


血管ブチ切れそうなガルドに、アーノルド王子は目を細めてガルドを見る。


「ねえ。それより、ひかり嬢を離して?」


ガルドはアーノルド王子を見据えた。

その瞳には燃える様な怒りと決意が現れていた。


「ひかりは、次期辺境伯の春だ!無理に奪う気なら一族全ての力でひかりを守る!そのつもりで来るがいい!」


ガルドの怒声にアーノルドは驚いた。

浮いた話の全く無かったガルドが本気でひかりを望んでいる。

この男は、知識など興味はないだろう。

ひかり自身が欲しいのだ。


「……ひかり嬢もそうなのかな?」


抱き上げられているひかりはアーノルド王子と目が合うと、猫が驚く様にビクッとし固まった。


ひかりは頭フル回転で考える。


辺境伯の春?春って何だっけ?私もそうなのかってなにが?守るって、なんか政治的な話してる?なに奪われるの私!?え?これどう答えるのが正解?

ぐるぐる考えてもわからない。


この人達なんの話してんの!?


ひかりは、キャパオーバーを起こしていた。


「ひかり嬢?」

「…ッ!」


アーノルド王子が優しく声をかけると、ひかりは先程の全く話が通じない恐怖を思い出して、思考が全て吹っ飛んだ。


返事をせずに、ガルドの胸元に慌ててしがみついてギュッと目を瞑る。


無理!わからん!知らん!怖い!


ぶるぶる震えながら、完全に殻に閉じこもってしまった。


ガルドはひかりが頼ってきたので冷静さを取り戻し、優しくひかりの背中を撫でて王子を睨む。


「アル…怖がらせるな。ひかりは全く王太子妃には向かないぞ。諦めろ」

「そうかなあ」

「そうだよ!お前本当にそれ悪い癖だぞ!」


まだめげないアーノルドに、ガルドは簡単に切れた。

アーノルドを叱ってる時に、バタバタと慌てたように二人の男が走ってきた。


「いたー!アル!一人で出て行くなって言ってんだろ!」

「あっ、エッセン団長!?足留めしてくださってましたか。ありがとうございます!」


金髪の男は、息を切らしながらガルドにお辞儀をする。

銀髪の男が王子の腕をガッシリ掴んだ。


「帰るぞ!母君が怒り心頭だぞ。お茶の時間すっぽかすなよ!」

「あっヤバ」

「では、失礼いたします」


二人は手際良く王子を馬車に回収していき、王城へ戻って行った。


「ひかり、もう大丈夫だぞ。殿下は帰った」

「……あの人怖い…」

「一人にしてすまなかった。もう離れないから、一度どこかで休もう」


珍しくひかりが縋ったままだ。

落ち着かせるように抱きしめてから、ひかりを見た。

ひかりはおずおずと離れて辺りを見回して、王子がいないとわかるとホッとして、降りる素振りを見せたので降ろした。


ひかりはガルドと目が合うと、少し気まず気な表情をしながら離れていく。


「ありがとう。もう大丈夫…」

「離れないでいい。店に入るまでこうしていよう」


そう言ってひかりと手を繋ぎ、歩き出す。

ひかりは、不思議な気持ちで歩いた。


ガルドの側にいると安心する。

握られた手に力を入れていいのか迷う。


力を入れないと、ガルドが力を抜けば離れてしまう。

ひかりは、離れたくなかった。



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