守ってくれる
「飲み物を買ってこようか。すぐ戻る」
「はーい」
先に食べ終わったガルドはベンチを立って、屋台の方へ歩いて行った。
ひかりは、まだモグモグとタコスそっくりなトルフィを食べている。
「やあ、ひかり嬢。美味しそうだね」
「んぐ?」
大きく口開けて、あむと噛んでいたら何処かで聞いた声が目の前からしてきた。
顔を上げたら、ラフな服装のキラキラしい王子様然とした笑顔の青年が立っていた。
? どこかで見たような?
モグモグしながら首を傾げてると、男は面白そうに笑い出した。
「まさか、忘れられたか。ほら、つい先日お会いしましたよ。王城で」
こそりと「王城で」と耳打ちされて、ひかりは口の中の物を吹き出しそうになった。
咄嗟に口を押さえて、アーノルド王子を見る。
この人、王子じゃん!何で!?何でいる!?
「思い出してくれたかな?」
笑顔の王子に、コクコクとひかりは頷いた。
「ひかり嬢が王都に遊びに来てると噂を聞いて、私も会いたくなったんだ」
「んん、え?な、何で?あ、いや、えーと」
心の準備もなく、突然やってきたアーノルド王子に、ひかりはまともな返事が出来ない。オロオロと口ごもる。
アーノルドは目を瞬いた。
謁見の時のひかりとは随分様子が違うな。
……これが、彼女本来の姿か?
美しいドレスを着て、畏怖な存在感を出していたひかり。
今はシンプルな服装で食べかけの物を持ったまま、オロオロとしている。
アーノルドはひかりの印象のギャップに、ニヤリと笑った。
「もっと話をしてみたいと思っていたんだ。会えてよかった」
「え!?そ、そうですか。なな何の話が」
ひかりが座っている隣にアーノルドも座り、食べ物を持ってる手を両手で優しく握る。
動揺しまくっているひかりを逃すまいと、ニッコリ笑顔で動きを制する。
こっわ!なに?この人怖い!
ひかりは本能で、頭の中に警戒警報を鳴り響かしていた。
「貴方のような女性は初めてなんだ。私の話を何もかも肯定するのでなく、ちゃんと自分の意見を言ってくれる。
隠しているけど、本当は博識だよね?あの時の話し方ですぐにわかったよ。
私は、貴方のことが忘れられなくなっていたんだ」
アーノルドは話しながら、熱い視線をひかりに送る。
「私なにも知りません!博識じゃないです!」
ひかりは、恐怖でぶんぶんと首を振る。
産まれてこのかた、こんな露骨に口説かれた経験がないので、突然手を握って褒めてくる王子が結婚詐欺師にしか見えなかった。
怖い!なんか絶対裏があるって!
アーノルドは、あの凛としてたひかりが怯えまくって震えてる姿が、可愛くて面白くて止められない。
「ーーーねえ、王太子妃にならない?」
ツツ…と握っている手を優しく撫でる。
「ならないです!無理です!ごめんなさい!」
青ざめながら即答してきたひかりを、アーノルドは逃さない。
自分の顔面の良さを全面に出す。
キュルンと潤んだ瞳でひかりを見つめる。
「私のことは嫌いかな?」
「いやいやいや、そういうことじゃなくて、殿下はもっと若くて素敵なお嬢さん選び放題ですよ!年上の私を選ぶメリット何にもありません!」
可愛い顔をされても無理なもんは無理!こわあ!
「………年上?」
アーノルドはキョトンとした顔をする。
どう見てもひかりは年下にしか見えない。
「私は28歳です!他を当たってください!」
「………」
これで終わりだ!
ひかりは、この訳がわからない状況を打破したと勝利を確信した。
ーーーが、アーノルドに輝く満面の笑みが現れた。
「年の差を気にしてたんだね!私は全く気にしないよ」
ピキッ。
ひかりの中で何かが壊れた。
「た……」
「た?」
アーノルドが首を傾げる。
「助けて!ガルドー!!」
ひかりが涙目でガルドの名前を叫んだ。
「ひかり!!」
ガルドが、すごい剣幕で走ってきた。
アーノルドの手を打ち払い、ひかりを抱き上げ距離を取った。
「大丈夫か!?ひかり、よく呼んだ」
助けを呼んだことを褒めて、強く抱きしめてくれたガルドに、ひかりは必死にぎゅうとくっついた。
ーー本当に守ってくれた
ひかりは、ガルドの温もりに安堵した。




